「自立したいけれど、仕事や収入で不安がある……」
「自分は頼れる人もいないし、ハンデもあるし、きっと難しい」
と悩んでいませんか?
多くの人が高校・大学卒業後、就職のタイミングで一人暮らしといった自立の第一歩を歩み出すかと思います。
一般企業に勤めてフルタイムで働いていると、最初は慣れないものの徐々にペースを掴んで生活をこなせるようになるもの。また安定した仕事や収入があれば、準備段階で賃貸の審査などに通らないことはほとんどありません。
その一方で生育環境や身体・精神的なハンデからフルタイムで働くこと、一人暮らしできるほどの収入を得ることに難しさを感じる人もいます。安定した仕事に就いていないと賃貸の審査に通りにくく、また仕事が見つからず困ることも少なくありません。
そのような人に向けて、認定NPO法人「NEXTEP(ネクステップ)」がシェアハウスを始めました。
ネクステップはA型就労支援や不登校児のサポートを行う認定NPO法人で、事務員の佐々木さんがシェアハウス「ライト」の管理人を勤めます。
そこで今回は、佐々木さんにシェアハウスを始めた理由や作りたい場所、シェアハウスに来てほしい人などお話を伺いました。
自立に向けて頑張りたいけれどどうしたら良いのか分からない、仕事や生活で悩みがあるという人は読んでみてください。
地域貢献に取り組みたく、NPO職員になった佐々木さん
ー自己紹介をお願いします。
:佐々木です。広島県出身で大学から熊本に住んでおり、現在は認定NPO法人「NEXTEP」で事務員をしています。
もともと「社会の中で地域に貢献する取り組みに仕事で関われたら」という想いをずっと持っていたことから、自然とNPOなどの活動にも興味を持ちました。
だから卒業後の20代は就職して本業を持ちつつ、NPOの活動にも関わり続けていました。
NPOは基本的に非営利。何か別事業とセットで運営していれば大きな利益を得ることも可能ですが、少なくとも熊本でそのようなNPOは見つけられなくて。
それでもNPOに関わりたかったので、いろいろと考えて熊本市の南区にある、地域のNPO団体に転がり込んだんです(笑)。
ー転がり込んだんですか?笑
:そこの役員さんたちの家に居候しながら、5〜6年は過ごしたかな。そんな時期がありました。半分居候ですね。
そうやってネクステップに入るまでは本当にいろいろなNPOを転々としました。
30歳の手前くらいでネクステップに事務員として入り、そこからもう10年くらい経ちます。
ーネクステップにはなぜ入ろうと思ったんですか?
:20代のとき、いろいろな人に親代わりのようになってもらい、とてもお世話になりました。
僕は広島出身で熊本に家族がいる訳ではない。ときには迷惑もかけながら、面倒を見てもらって過ごした感覚を持っています。
もちろんその恩返しをしたい気持ちもありますが、それをお世話になった人にいま返すよりは、自分ができることを助けが必要な人に循環させたいんです。
例えば暮らし・生活の面を助けたり、相談に乗ったりして関わることができれば、巡り巡って僕がお世話になった人への恩返しにもなる気がしています。
ー恩返しですね。現在所属しているネクステップの活動を教えてください。
:ネクステップは小児専門のサポート、A型就労支援、不登校児のサポートなどに取り組む団体です。
【ネクステップの取組(一部抜粋)】
・小児在宅支援事業「ステップ」
「小児専門の訪問看護ステーション」「小児専門の居宅介護事業所」「重い障害の子どもたちが通える障害児通所支援事業所」など
医療機器や支援が必要な子どもたちのサポート。具体的には⼩児専⾨の訪問看護ステーション、障害児専⾨のヘルパーステーションなど。
・就労継続支援A型事業所「ちょこから」
障がいや難病があり、一般企業で働くのが難しい方に職場を提供する福祉サービス。65歳未満の方が対象で、1日4〜8時間働く仕事を紹介。
・不登校児サポート「フィールド」
不登校児を対象に、合志市にある畑での農作業体験を提供。野菜の植え付けや収穫をし、お昼にはその野菜でご飯を作って一緒に食べる。
私が管理人をするシェアハウス「ライト」は、A型就労支援や不登校児サポートと関わりがありますね。
ーA型就労支援とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
:私たちが支援するA型は、知的・身体・精神に障がいがある、または難病があり、一般企業で働くことが難しい方に提供する福祉サービスです。
一般企業での就労が難しい65歳未満の方が継続して働けるよう、一定の支援のある職場を紹介しています。
1日の実働時間は4〜8時間程度で、一般的な労働時間よりは短いです。ただ雇用契約を結んでいるので、最低賃金以上のお給料が支払われます。
就労支援にはB型というのもありますが、A型との違いは年齢制限、雇用契約の有無、お給料の3つですね。
B型は年齢制限がありませんが、A型で支援するのは65歳未満の方。
A型の方が制限があるように見えますが、B型は雇用契約を結ばず、生産物への成果報酬として工賃を支払う仕組みなんです。また仕事も軽作業が中心。
だからB型は自分が働きやすいペースで仕事をすることができるものの、大きな金額は得にくい。
対してA型は実働で1日4〜8時間は働きますが、その分雇用契約を結んで一定のお給料が支払われるので、自立には近付きやすいと思います。
ネクステップはA型の就労支援を提供しているので、65歳未満で4時間以上、ある程度長い時間働く方が多いですね。
主に食堂での調理補助や接客、農作業やその製品化に付随する作業をお願いしています。
ー例えば、シェアハウス「ライト」に住んだら仕事も紹介してもらえるんですか?
:A型の就労であれば、ネクステップで提供できる可能性はあります。
現在、A型の就労が決まった子たちからシェアハウスに案内している状態なので、シェアハウスが気になって問い合わせをくれた方が就労支援も受けたケースはまだありません。
ただ、今後は住居と仕事セットでの紹介も起きるかもしれないですね。
シェアハウスが気になって見学に来てくれた人が、A型の就労支援の仕事も見学するとか。そういう子も出てくるのかなと思います。
シェアハウス「ライト」はどんなシェアハウス?
ー「ライト」はどんなシェアハウスですか?
:基本的に、A型の就労支援で働いている子たちの住まいになります。
あとは親や家族に頼れないような背景がある、もしくは自立に向けて頑張りたいと思っている子たち。
親がいない子どもたちは18歳までは「施設で生活する」という制度で守られていますが、施設は高校を卒業すると出ないといけない。仕方ないけれど、いきなり社会にポンッと放り出される形になりますよね。
でも正直、18歳で就職して生活はできたとしても、初任給から大きな金額を得られる訳ではありません。またいきなり何も頼るところがない状態で一人暮らしをして、仕事も始めてとなると大変です。
最初は料理や洗濯も慣れないだろうし、休日は仕事の疲れでグッタリして、部屋は散らかったまま。貯金なんてとんでもない。
そもそもお金の管理が苦手でどうしたら良いのか分からない。そんな状態のこともあるかと思います。
何よりも、身寄りがないといきなり賃貸の家を借りるのは難しい。でも仕事があるし、住むところも施設を出たらもうないから、探さないといけない。
そういうときにライトみたいなシェアハウスがあれば、拠り所であり、独り立ちの訓練になると思うんです。
ライトは家賃が安いし、さらに管理人という相談できる大人がいるので、安心できる環境です。そういうところで生活をスタートするだけでも、その後の日々が良い方向に進みやすくなります。
ー自立や一人暮らしに向けた、1つ前のステップとしてサポートするんですね。
:そうして暮らしを確立させていく中で、少しずつ自立に向けた自信がついてくるかもしれない。仕事も順調に進んでスキルも伸びれば、給料も上がるかもしれない。
もしくは18歳の就職したばかりでも、少しずつお金を貯めることはできる。「免許を取って、車を買いたい!」と目標を持ってコツコツ頑張れば、自分もできる気がしてくる。
最初は境遇的に自立が難しかった子でも、何段階かステップを踏むことで一般の賃貸を借りられるくらいの社会人になれる可能性はあります。
目安としては2年くらいかな。自立までの目標期間として設定して、その中でお金の管理や家事・炊事をこなして自信をつけていく。
そういう状態になるまで、ステップアップの場所としてここを使ってほしい。そのための場所です。
ーなるほど。
:またA型の就労支援を受けている子は、体力・精神面でフルタイムで働くことができません。収入は月8万円くらいが平均値で、その金額で一人暮らしはなかなか難しいです。
でもそういう子たちがずっと自立できないのかというと、そうではない。現状難しいだけで、今後成長して労働時間を増やして、生活できるくらい稼げるようになるかもしれない。
その練習場所として、このシェアハウスが機能していけば良いなと思います。
ー良いですね。家での料理など、家事は入居者の方が自分で担当しますか?
:各自にしようと思います。たまにふるまおうとは思いますが(笑)。
ネクステップのA型で働いている子たちに限りますが、仕事の1つに食堂での調理補助があります。食堂と連携すると、余ったご飯を分けてもらうこともできるかもしれません。
基本は「自分で作るんだよ」という前提を持ちながら、最低限の栄養を確保したりフォローしたりしていく。そういうことはできるかなと思います。
シェアハウス「ライト」を立ち上げた理由と名前の由来
ーそもそも、なぜこのシェアハウス「ライト」を始めようと思ったのですか?
:いろいろなことが重なった、という感じですね。一番は自立支援のために、より良い場所を提供できたらという想いからです。
ネクステップのA型就労支援で働いている子たちの中で、親元から離れて生活してみることで自立に向かって成長できるのでは?という子が何人かいたんです。
ちょうどそのタイミングで代表の島津も似たようなことを考えていて、話が出ました。
そして物件をどうしようとなったときに、空き家があると聞いたんです。
熊本県の合志市から委託を受けて空き家バンクを運営している「こうし未来研究所」があるのですが、知り合い経由で相談したところ、おばあちゃんが亡くなられて実家が空き家になっている人がいると。
そのご家族が「これからどうしようかな」「何か福祉的な取り組みに活用できたら良いのでは」と話していたそうなんです。
僕らがシェアハウスを考えたタイミングとは偶然ですが、こうし未来研究所経由でシェアハウスの話をすると「良い話なので進めましょう」と言っていただき、トントン拍子でこの物件をお借りすることになりました。
ーそうだったんですね。「ライト」という名前にしたのは何か由来が?
:明るい感じが良いなと思ったのがきっかけです。
ライト(light)にはいろいろな意味があります。まず「軽い」という意味のライト。
カタカナで書くと特に、心が軽くなったり明るくなったりする印象を受けます。
ここで暮らしている内にみんなの気持ちが癒やされて、前向きな力が湧いてくる場所になったら良いなと。
あとは「明るい」という意味。
シェアハウスで生活すると同居人という、身内ではない他者との関わりが生まれる。その他者と話したり相談したりする中で、助けられたり気持ちを明るくしてもらったりすることってあると思うんです。
その経験をバネに巣立っていった子たちが、社会に出ていろいろな人と関わる中で周りの人たちを照らして、明るい気持ちにしていく。
その明るさが循環するスタート地点がこのシェアハウスのライトだったら良いなと思い、この名前を付けました。
理想は暮らしを支援し、自力で生活できる姿を見せること
ーシェアハウスを始める上で、どんな場所にしたいですか?
:理想は不登校だったりA型の就労支援を受けていたり、周囲からの助けが必要な人たちが自由に希望を持って、自分の力で生活している姿を見せる。そんな場所になること。
フルタイムで働いて賃貸を借りるといった一般的な生活を目指す場合、どうしてもある程度の仕事や収入が必須です。でも不登校や就労支援を受けている人たちは、そこが高いハードルにもなる。
一般的な生活にたどり着くまでの準備期間としてライトを使ってもらって、滞在中はサポートできたらと考えています。
そう思うようになったのは、ネクステップで取り組んでいる不登校支援が大きく関係しています。
2005年ごろから不登校の子どもたちのサポートとして農作業体験を提供していて、もう17年くらいになります。
当時小学生だった子が、2023年時点では22〜23歳になっているのですが、実際に何年ぶりかに会うと「実は働いていなくて」とか、中には音信不通の子もいます。
そうやって、大人になったときに生活が止まっている子も多い。
また、現在ネクステップの農業体験に来てくれている親御さんやスタッフとの会話で「学校に行ける・行けない、今後どんな進学のルートがあるのか知るよりは、最終的に自由とか希望を持って自分の力で暮らしていけるようになっている姿が望みだよね」とよく耳にするんです。
自立を目指すと、やっぱり働くという部分のサポートが必要。そういう背景からネクステップで就労サポートチームを立ち上げたものの、暮らしもサポートできるともっと背中を押すことができる。
だから生活面をしっかりと支援する、そんな場所にしたいです。
ー仕事だけでなく生活面も、総合的にサポートするんですね。
:また僕が管理人をやっていて今後も続けるつもりですが、週に2日しか担当できないんです。それよりはもっと多くの時間接した方が良いこともあるし、もっと関われる人がいるかもしれない。
だから5年後くらいに、ライトに住んでいた子や同じような境遇の子が住み込みで管理人になっても良い。
僕はこのシェアハウスで親代わりの一部としてサポートするつもりですが、親代わりとして相談できる大人は複数いた方が良いと思うんです。
この人しか相談できない、じゃなくて「〇〇はあの人に聞いた方が良さそうかな」「▲▲はこの人に相談しようかな」とか。
相談できる存在は多い方が安心感にもつながる。「この子なら任せられる」という人が出てくる可能性もあるし、そのときは任せたい。
そういう安心感をバトンタッチしていくような、入居者同士のリレーが生まれたらすごく良いですね。
ー今後何年もシェアハウスが続いていくと、佐々木さんが子だくさんのビッグダディになる感じですね(笑)。どんどん接する子どもが増えていく。
:そうそう(笑)。10年後とか、そんな風になっていったら良いなと思います。
シェアハウスに来てほしいのはどんな人?
ーシェアハウス「ライト」にはどんな方に入ってきてほしいですか?
:どんな方というのはそんなにないかな。強いて言うなら、一歩踏み出したい人。
実家を出て自立して、自分が自由に生活することに挑戦したい。でも仕事や収入の面でいきなり一人暮らしは難しい。
何度も話したように、ライトはそういう方が少しずつ自立に向けて準備していく場所です。いまの場所から前を向いて進みたいという想いを少しでも持っている方に使ってもらえたらうれしいです。
そもそも少なからず、ここに住もうとする時点で挑戦だとは思うんですよね。実家がある人はたとえ家族と喧嘩したとしても、衣食住は保証されている。
そこを一歩踏み出して自分で生活したい。でもいきなり完全に自立するのは難しい。
そういうときにうちを使ってもらえたら。ここで暮らす内に自信をつけてほしいです。
ー自立したい、何かに挑戦したい人がここで試行錯誤して目標をクリアする。ずっといる場所ではなく、巣立つ場所になる。そんなイメージですね。
:里親的なニュアンスがあるかもしれません。ここが1つの実家っぽくなって帰ってきたり。巣立つ場所でもあり、いつでも帰ってこれる場所にしたいです。
自立に向けた練習場所としてサポートし、希望を見せる場所に
今回は認定NPO法人「NEXTEP」の事務員として、シェアハウス「ライト」の管理人を勤める佐々木さんにお話をお伺いしました。
一人暮らしは仕事や収入、保証人など契約面でハードルが高く、またスタートしてからも身の回りをすべて自分で担当するため、なかなか大変なもの。
通常は社会人になって仕事が見つかればできそうに思うかもしれませんが、支援が必要な人からすると果てしなく高い壁のように感じます。
でも、ずっと乗り越えられない訳ではありません。
佐々木さんやネクステップのように、サポートしてくれる人・場所が見つかれば、ゆっくりでも自分の理想や希望に沿った生活ができるようになる可能性もあります。
卒業後も管理人になったり、たまに遊びに来たりしても良いと、佐々木さんから「一生面倒を見る」という、簡単には揺らがない決意のようなものを感じました。
ライトという準備場所を見つけただけで、すでに希望の入り口に立てているのかもしれません。
佐々木さんが管理人を勤めるシェアハウス「ライト」、またはネクステップの活動については、ホームページからお気軽にお問い合わせください。