東京は日本の中心ゆえに全国から人が集まり、さらには何でも揃う都会的な場所です。便利な半面、落ち着かなさそう、無機質で冷たい印象を抱く人もいるのではないでしょうか。
しかし実際は東京といってもいろいろな場所があり、渋谷や新宿といった中心部に近いながらも自然豊かで落ち着くエリアもあります。
東伏見もその1つ。東京の新宿から電車で20分の距離にありながら、ややローカルでゆったりとした雰囲気の場所です。
今回は東伏見でシェアハウスを新しくオープンするオーナー・水野さんにお話をお伺いしました。
水野さんは元公務員と堅い仕事からキャリアをスタートしたものの、ペンション経営や中国での勤務と新しいことに次々チャレンジしたり、次は70代でシェアハウスを始めたりと、経験豊富な方です。
その中で自分のホスピタリティという部分を大事にし続け、今回ご実家のある東伏見で多様性あふれる温かいシェアハウスをスタートさせました。
東京に住みたいけれど騒がしい場所は嫌だ、何か新しいことを始めたいけれど不安……といった方はぜひ読んでみてください。
シェアハウスひだまり「東伏見」は現在も入居者を募集中です。気になる方はこちらの詳細ページも合わせてご覧ください。
公務員、ペンション経営、中国での勤務を経てシェアハウスオーナーになった水野さん
ー簡単に自己紹介をお願いします。
:水野です。1950年生まれ、もうすぐ73になる歳です。
生まれは新宿で、現在シェアハウスになっているこの家が実家です。
シェアハウスを始める前は中国で会社経営のようなことをやっていました。日本の携帯の部品を作る会社があり、その中国支社を10年ほど任されていました。7〜8年前に引き払うまで、合計15年くらい中国にいましたね。
ーその前は何をされていたんですか?
:もともとは地方公務員で市役所の職員をしていました。20代で学校を出てから、10年と少し。
1980年代の高度経済成長期の頃だったのですが、当時光化学スモッグや水俣病が問題となり、日本全体で公害問題がクローズアップされ始めた時期でもありました。
私は理学部出身だったこともあり、公害やその対策に関心を抱いていて。
地方自治体も公害対策に着手し始めて、そのために理学部系の職員を採用したいと募集が出ていたのを見つけたのが公務員になったきっかけです。
ただ、公務員とか堅い仕事はあまり好きではなかった(笑)。仕事や働き方、雇用形態に魅力を感じたというよりは、公害対策や環境問題に関われることにおもしろさを感じたんです。正直に言うと腰掛けのような感覚でしたね。
だから10年以上勤めた後、どうしようかなと思い始めて。アウトドアが好きだったこともあり「やっぱりもっと自然のあるところで働きたい」と、伊豆でペンションを始めたんです。
ーそうだったんですね。
:そこから15年ほどペンションを経営して、子どもが大きくなってからペンションは息子に任せることにしました。そしてこの実家に自分の親が1人という状況で心配なこともあり、私は東京に戻ったんです。
そのタイミングで知り合いから「事業を拡大しているが、管理できる人間がいないから手伝ってくれないか」と声をかけられて、またサラリーマン生活に戻りました。中国に住んでいたのはその会社の仕事のためです。
ーそうだったんですね。いちばん長く、思い入れがあるのはペンション経営ですか?
:みんな思い入れがあるんですよね。でも考えてみると、それぞれ15年くらい働いて次のステップに進んでいるんです。飽きやすいのかもしれない(笑)。
友だちからもよく言われます。
「お前は新しい仕事をがむしゃらに頑張って一点集中するのが好きで、安定するとまた次のところに行ってしまう(笑)。せっかく安泰したのだから、ずっとその仕事を続ければ良いのに」って。
新しいことに挑戦するのが好きなのかもしれない。この歳になっても(笑)。
ー確かに、もうすぐ73歳と聞いたときは驚きました(笑)。
:強いて言うならいちばん合っていたのはペンション経営ですが、思い入れがあるというか、ホスピタリティのある仕事が好きなのかもしれない。
市役所の仕事も市民の方々と窓口で関わったり、人と一緒に取り組んだりすることはあるけれど、何かおもてなしをする訳ではありません。どちらかというと指示や業務をルール通りに、ミスなく実行することが求められます。
対してペンションは、みなさん「宿泊する」という目的は同じながらも、お客さまによって求めるものが違います。
例えば、人付き合いやふれあいといった温かさ重視で滞在する人もいるし、ホテルのようにクオリティが高いサービスを求める人もいる。
その人やそのときに合わせて、お客さまがそれぞれ過ごしやすい雰囲気を作ることが必要な仕事です。それが楽しく、自分に合っていたと感じます。
シェアハウスは空き家になった実家をいろいろな人が交流する場所にしたくて始めた
ー今回新しくシェアハウスを始めようと思ったきっかけはありますか?
:最初に考えたのは2021年の暮れかな。この家は母親が1人で住んでいたのですが、2021年に亡くなって。弟2人と「この家をどうしよう」と話していました。
多くの人は空き家として残すか、手入れも大変だから処分するのが一般的です。実際に私の家も物がたくさんあったし、定期的に手入れしないと汚くなるし、みんなで相談して「処分しよう」と決めていました。
でもその一方で、私の両親がこの家を大事にしていたのも知っていて、そのまま壊しちゃうのもどうなのかなという気持ちもあった。弟2人も「ここが残るなら残る方がうれしい」と。
そうやって活用方法を模索し始めて、壊すか、残すとしたら何ができるかと考えている内にシェアハウスにたどり着きました。
アパートなども考えましたが、自分はふれあいや交流のある、ホスピタリティを感じる仕事が好きだったので、入居者が個々に暮らすアパートより交流が生まれやすいシェアハウスかなと。
ーそのときにひだまりにお問い合わせをいただいたんですよね。
:深く調べた訳ではなく、いきなり「できますか?」と聞きました。
正直、当時はできるかなと半信半疑だったんです。だから「まだやるかやらないか、決めていないですが」という前置きもした上で相談して。
でもお問い合わせをしたら、ひだまりの琢さんがすぐに試算表を作るなど、いろいろと親身に相談に乗ってくれました。
その中で「できるんじゃないですかね」と言ってくれて。できるという言葉を聞いてその気になっちゃいました(笑)。
ー正直、当時はまだコロナの不安や問題もありましたし「絶対に大丈夫」と断言はしづらい状況でした。家賃面でも、すぐに多くの収益を保証をするのは難しいとは話しましたよね。
そうそう。でも収益というより、自分の志向や生き方の中で「いろいろな人との交わりがほしい」という想いが発端だったから、収益はそこまで重視していませんでした。
もともと東伏見のシェアハウスは全3部屋で、営業や経営という面で考えれば大きな利益が出る訳ではないと思うんです。
そこにホスピタリティが好きな自分の考えもあって、収益よりも自分の「交流」といった価値観に重きを置こうかなと。自分自身の楽しみとしてやりたいと思い、シェアハウスを始めることにしました。
シェアハウス周辺の東伏見はチェーン店から自然まである落ち着いたエリア
ー東伏見はどんな場所ですか?
:私がここにいたい、好きな理由にも通じますが、便利さとゆったりとした雰囲気が共存する場所です。
まず駅から近い。シェアハウス周辺は住宅街で静かですが、駅まで5分もかからない。利便性も高く、シェアハウスの先にある青梅街道から、もしくは電車で20分ほどで新宿にも着きますからね。
ーそうですよね。この辺って割と住宅街のような雰囲気を感じますが、ユニクロとか生活に必要なものは揃っていますよね。
:そうそう。シェアハウスからユニクロは徒歩1分、ガストは3分とか。
それくらい便利なのに、東伏見公園や武蔵公園など自然豊かで落ち着く場所も多い。
シェアハウスから10分ほどの武蔵公園には池の周りを囲む周遊コースがあり、私はそこでジョギングしたりウォーキングしたりするのが好きです。早稲田大学が近いので、学生さんも走っていますよ。
他には石神井川(しゃくじがわ)の上流に行くと、芝生の広い東伏見公園があります。最近人気があって、お子さんを遊ばせに来た若いご夫婦もたくさん見かけますね。
ー割と自然が多くて、ゆったりしている場所ですね。落ち着いて生活できそうです。
シェアハウスはDIYで。木を使った温かみのあるデザイン
ーこのシェアハウスは1年かけてDIYされましたよね。こだわりはありますか?
:私は自然が好きなので、内装はなるべく化学的な物質を使わないことにこだわりました。
まず木の無垢。客室は漆喰にしたことで湿度の調整ができますし、有害物質や有害ガスなどを吸収してくれる効果も期待できます。
見た目だけでなく、生活する上での影響や効果も考えました。
あと各部屋には2ヶ所に窓があり、太陽の光と風がいっぱい入る、自然を感じられる部屋になっています。部屋にいるだけでゆったりとした、落ち着く気分になれますよ。
ー良いですね。デザインはご自身で考えられたんですか?
:そうですね、どちらかというと設計図を作って入念に考えて……というよりは、その場その場で考えて(笑)。
自分も住む訳だから、なんといっても自分が使いやすいのが良いなと。自分で思いつくままに作りました。
ー木材も自分で買ったんですか?
:そうそう。床の木材はヒノキなのですが、実はホームセンターで買うと高いし、良い物が手に入るとも限らない。
だからシェアハウスで使っている木材は製材所から直接買い入れました。そこから自分でトラックで運搬して。表に置いてある軽トラ、そのために買ったものです(笑)。
あとシェアハウスのDIYに必要な量や面積も自分で計算しました。そうしたら全部使い切れて、過不足が1枚も発生しなかったんです。
キッチリと計算できた訳ではないので、半分偶然もありますけどね。
ーすごい!素人ではできないですよね。もともとセンスがあられたんですね。
:専門知識を持っている訳ではなかったので、いろいろと製材所の方に聞きながら試行錯誤しました。
あと最近はYouTubeを調べれば、DIY関連の動画がたくさんアップロードされているんです。DIY好きな人たちが「こうやってやると良いよ」って。そこから学んで実践をくり返していました。
ーすごいですね。でも、大変じゃなかったですか?
:確かに大変ですけれど、これを楽しめるんですよね。苦労もあるんだけれど「ああ、これ楽しいな」「やらせてもらえた」という感覚。
完成したときに達成感を感じられて、それが楽しいんですよね。壁1枚貼り終わっただけで「ああ良かった」「ここまでできた」って。中毒みたいなものですかね(笑)。
だからこそ、このこだわりを見て良いなと感じてくれる人が入ってくれるとうれしいです。
シェアハウスはいろいろな年齢や性別、国籍が交わる、多様性のある場所にしたい
ーこだわりを持って作られたシェアハウスですが、もともと他人と共同生活をした経験は過去にありますか?
:あまりないですね。中国にいたときに会社の寮で生活していましたが、シェアハウスのように交流がたくさんある訳ではなかったです。一緒の寮に入っているのも会社のメンバーなので、顔なじみ。
何の接点もない人と共同生活するのは本当に初めてなので、楽しみですね。
ー逆に不安とか、緊張とかってないですか?
:ないですね。楽しみの方が大きい。
ーいいですね。初めてのことって緊張とか、大丈夫かなと不安に駆られる人もいるので。
:この歳までけっこういろいろな経験をしていて、さらに一般的な人生で考えると3倍くらい楽しませてもらっているので(笑)。
新しいことにチャレンジするのも好きだから、「初めてで怖い」と感じることはないですね。なるようになるという感じです。
ー素敵ですね。これからシェアハウスを作る上で、楽しみや理想の生活はありますか?
:いちばん楽しみなことは、いろいろな人とつながれること。
もともとシェアハウスに対して「陽だまりのある縁側で、みんなでお茶を飲みながら話す」といったイメージを持っていたんです。いろいろな人が交わる広場みたいな。
また私自身の考え方として、男性も女性も若い人も年配の人も、それこそ障がいのある方、LGBTの方含めて、さまざまな個性を持つ人が出会い交流する場所にしたい。
正直、部屋は3つしかないから大勢受け入れるのは難しいし、設備も整っている訳ではありません。例えば急に身体に障がいのある方が入居されたときに、まったく不自由のない生活を提供するのは難しい可能性もあります。
私が可能な範囲でできることを提供して、どんな属性の人でも交わる場所になれば良いなと考えています。
ーオープン前の現時点(2023年3月)で3部屋の内、2部屋は入居者が決まっていますよね。
:最大3人ですが多様な人が暮らす中で、それぞれが求める生活や関わり方も実現できたら良いなと考えています。
ペンション経営の際に意識していたことですが、みなさんペンションと聞くとオーナーのご家族と一緒に食卓を囲んで、談笑してと民宿のような、アットホームな雰囲気をイメージするかと思います。
でも、実際はペンション経営者によってそれぞれ雰囲気・スタイルが異なるんです。厳密にはペンション経営者の加入するグループがあって、そのグループが目指す方向性を自分のペンションに反映していく。
私が所属していたグループが目指していたのは「小さなホテル」。スタッフ側が家族などプライベートを見せることはなく、必要なものをちゃんと用意して、あとはお客さまが希望する空間や過ごし方を大事にする接し方を心がけていました。
自分の習慣として、相手に合わせるスタイルが根付いています。だからシェアハウスでも、入居者の方が求めているものに合わせて対応できるのではないかと思います。
ー長年そういう働き方・接し方をされていたから、無意識的に持ち合わせていらっしゃいそうです。
:自分自身もすごく心地良いんですよ。お客さまが求めるものを高クオリティーで提供して、喜んでくれるところに自分の喜びがある。
仕事として心がけている以上に、生き方にホスピタリティがある感覚ですね。
だから東伏見のシェアハウスに来てくださる方も、私の自然素材へのこだわりだったり、多様性を受け入れたいといった想いだったり。そこに共感してくれる人が興味を持ってくれるとうれしいです。
思い出のある場所で、いろいろな人が交わるシェアハウスを目指す
今回は、ご実家をシェアハウスとして生まれ変わらせた水野さんにお話をお伺いしました。
いろいろと新しいもの・ことに興味を持ち、チャレンジしてきた水野さんの人生。さらに多様性のある人を受け入れる、入居する人が心地よい空間を作るなど、常に相手のことを考えて生きてらっしゃる姿が印象的でした。
そのような水野さんの考え方、人柄が良いからこそ、次から次へと新しいことに挑戦する機会が生まれ、どこでどんな仕事をしても成功しているのではないかとも感じました。
東伏見という、都会ながらも自然豊かでゆったりとした雰囲気の場所だからこそ出せる空気感もあるかもしれません。
シェアハウスひだまり「東伏見」は、残り1部屋となっています(2023年4月時点)。見学も受け付けているので、気になる方はお気軽にお問い合わせください。