多くのシェアハウスは35歳までという年齢制限があり、実際に住んでいる人も20〜30代が中心です。しかし「老人ホームは機械的に感じる」「一人暮らしは物足りない」などの理由から、家族以外の人と共同生活する高齢者は増えています。
シェアハウスひだまりでも年齢制限を設けていないことから、60〜70代で入居される方もいます。
とはいえ、実際に高齢者でもシェアハウスに住めるのか、若い人と一緒に生活できるのか、そもそもシェアハウスのイメージがつかめないなど、不安は多いのではないでしょうか。
そこで今回は、実際に70代でひだまりのシェアハウスに住む吉野さんにインタビューしました!
なぜシェアハウスに住もうと思ったのか?実際に若い人と生活できるのか?など、暮らしについてお伺いしています。
シェアハウスが気になっている人、入居しようか悩んでいる人は、参考にしてみてくださいね。
イギリスに滞在していた吉野さん。日本でシェアハウスに入居するきっかけは?
ー吉野さんの自己紹介をお願いします。
吉野です。いま70代です。
本業でシャンソン歌手をしており、ヨーロッパやアメリカで歌いながら生活していました。
また歌の教室を30年近く運営して、コミュニティ作りに励んでいました。
ただコロナになってからは、自分がイベントを開催することで感染が広がるリスクもあるため、コミュニティやイベントなどの活動はしていません。いま、人生で初めて何もせずに過ごしています。
ーもともとは千葉に住まれていたんですよね。
はい、実家が幕張にあります。また息子がイギリスに住んでいることもあり、シェアハウスに住む前は行ったり来たりしていたんです。
ただイギリス・ロンドンの郊外で、日本人がほとんどいません。
地域と関わろうと思うと、日本人クラブなどコミュニティに入る必要があります。また昔はイギリスで働く友達がたくさんいましたが、現在はほとんどが日本に帰国し、知り合いがいない状態でした。
息子の家に滞在していましたが、彼らは日中仕事のため、一人で過ごします。ガーデニングなどに精を出しましたが、終わったら何もすることがなくて。
もともとの滞在期間も終了して、日本に帰国したんですね。
まずマンションを探しましたが、一人で住むのは嫌でした。そのときに日本のシェアハウスはどうなっているんだろうと調べたのが入居のきっかけです。
調べる中で、日本のシェアハウスでは年齢制限が設けられていることに驚きました。イギリスでは年齢などで何かを制限することは禁止されているんです。
多くのシェアハウスが年齢を35〜40歳までとする中、ひだまりは特に年齢制限がなかったため、高齢者でも入居できるのかなと問い合わせました。
吉野さんの普段の生活とシェアハウスで印象的だったこと
ー吉野さんは普段、どんな生活をしていますか?またシェアハウス生活はどうですか?
最近はコロナの影響で仕事もストップしており、初めて一銭も稼いでいない生活をしています。
普段は友達が近くに住んでいるため、週に1回は駒沢公園で待ち合わせして、散歩してランチを食べる習慣があります。連絡もよくもらうのですが、生存確認の意味が込められていますね(笑)。
シェアハウスではホッとする瞬間が多いと感じます。
例えばこのお家の近くは冷たいコンクリートの建物が多い都会ではなく、小道がたくさんある住宅街です。落ち着いた雰囲気で見慣れたお店があることに、私はすごくホッとします。
家にいるときも、みんなが仕事から帰ってきたときに聞こえる足音に安心します。人の息吹と言うのかな。いつも顔を合わせる訳ではないのですが、足音で「帰ってきたな」と分かるし、人が生活している雰囲気も感じ取れます。
ー人がいる雰囲気を感じますよね。
あとは最近、近所の方と仲良くなりました。ご近所さんが80代と年が近かったのもありますが、一緒に出かけたり世間話をしたりしています。
というのも、この家の前に柿の木があるのですが、葉っぱがたくさん落ちるんです。その掃除を手伝い始めたことがきっかけで、コミュニケーションを取るようになりました。
住人の中で一人年代は違いますが、若い人と比べるとご近所とのパイプになりやすいのかもしれないと感じた出来事ですね。
基本的に、私は与えられた環境で楽しもうという気持ちがあります。私どこに住んでも平気なんです。どんな環境になっても楽しめる自信があります。
だからシェアハウスも毎日楽しいです。
高齢者向け施設は人との関わりが少ないことから退去する人もいる
ーシェアハウスに興味を持ったきっかけをもう少し詳しく教えてください。
一般的に高齢者といわれる70〜80代の方はグループホームや老人ホーム、高齢者専用のマンションなどに入居するイメージがあります。高齢者用の住居への入居は考えられましたか?
シェアハウスに年齢制限があると知ったとき、私たちのような高齢者は老人ホームに入居するしかないのかなとは思いました。
というのも歌の教室の生徒さんに、老人ホームに入っている人がいます。ケアが必要な人向けの施設というよりは、高級感のある高齢者用のマンションのようなところ。
遊びに行ったときに設備やサービスはとても良いものの、私はまだまだ健康で前向きに生きていきたいなと感じました。
実際に私のお友達でも、かなり高級な老人ホームに入居した人がいるのですが、1年も経たない内に退去していました。
ケアはしっかりしてくれるし食事もおいしいし、何も不自由はありません。しかし飼われている羊のような、そんな気持ちになったそうです。
またどこに行っても同じですが、お金の多い・少ないに関係なく、人間関係はすごく難しい。高齢者はリタイアしている人がほとんどだから、過去の話が中心です。
自分がどうやって稼いだとか、お金の話ばかりになるんです。そういう話を聞きながら食事するのが耐えられないと。
本当は5年住まないと保証金も返ってこないのですが、友人はそれでも良いと1年で退去していました。早く出たい。そういう高齢者はたくさんいます。
ーそうなんですね。
高齢者用マンション、身体のケア・サポートが必要な方向けの施設はもちろん需要がありますが、私のように健康で自分で生活できる人もいます。
さらに若い人たちと交流したいという高齢者も多いです。実際に私がシェアハウスに友達を呼んだとき、みんな若い人と住んでエネルギーをもらえることに興味を持っていました。
ただ調べたときに、シェアハウスに入居できるのはだいたい40歳まで。高齢者が若い人と接点を持つ機会は少ないんだなとも実感しました。
ーそうですよね。自分も60〜70代の人と交流する機会はあまりありません。
ただシェアハウスに高齢者が住むことは、メリットもあると感じます。シェアハウスによっては掃除など当番制ですが、若い人でも働きながら家事をするなんて大変ですよ(笑)。
だから自分がやりたい気持ちが強いのもありますが、時間があるときに家の掃除などを担当しています。そうするとみんなが「ありがとう」と言ってくれて、喜びを感じます。
自分が必要とされている場所がここにあるんだと感じられることは、高齢者にとって大きいです。
どこまでやっていいんだろうと、塩梅は難しいのですが(笑)。
もともとにぎやかな雰囲気が好きなのもあって、他人との共同生活はあまり気になりません。シェアハウスに入ってすごく良かったと思う日々です。
ただ運営方法だけは、課題もあるのかなと感じます。おそらく日本では、まだまだシェアハウスを活かし切るのが難しいのかなと。
シェアハウスといえど、ただ建物を作って住人を入れておけば良い訳ではありません。
普通のマンションとは違う、シェアハウスならではの魅力は交流があること。加えて、高齢者が若者と関われることにすごく価値があります。
高齢者の需要にも合わせて、価値をもっとアピールしても良いのかなと感じます。
ー実際に吉野さんと同年代の方で、シェアハウスに興味がある人はいますか?
そうですね。友達も遊びに来たときに興味を持っており、何よりも老人ホームに入りたくない人が圧倒的に多いです。
シェアハウスなら一人の人間として生活できる上に、若者からエネルギーをもらえることにすごく価値を感じます。私も最近、鏡さえ見なければ自分が年だなんて思わないです(笑)。
ー吉野さんは特にエネルギッシュですからね(笑)。
高齢者はシェアハウスで居場所を見つけることができる
ー高齢者の人がシェアハウスに入居することで、居場所が見つかりそうですよね。
7年前ほどの話ですが、シェアハウスの近くに住む70代の方が週に1回、住人にご飯をふるまってくれていました。
その人に話を聞いていたら、年齢を重ねるごとに人間はできることが少なくなっていく。いままで当たり前にできていたことができなくなり、できることが少なくなっていくから、世の中に対する自分の存在意義が分からなくなる。
さらには高齢化社会のニュースなどを見て、私たち高齢者は世の中の負担なのかな?と感じるそうです。できることが減ったのもあって、自分自体の存在意義がないように思えてくる。
そのような中でシェアハウスでみんなが喜びながらご飯を食べる姿を見ると、自分自身が満たされるような気持ちになると話していました。
そうですね。人間がもっとも寂しさを感じるのは、誰にも相手にされないことだと思います。高齢者には、家族や友人などに相手にされなくなった人もたくさんいます。
先ほどの高齢者向けマンションのように、環境がそろっていても心が幸せにならないと意味がありません。
そういう意味でも、高齢者がシェアハウスに入居すると役割や居場所が見つかり、心の状態も良くなると思います。
例えば、みんなのために何かをしたい高齢者を一人、管理人として住んでもらうようにお願いする。お給料で雇う訳ではなく、管理人として住みたい人を募るのは良いと感じますね。
実際のシェアハウスはみんな生活リズムがバラバラだから、一緒にご飯を食べたりずっと話したりすることは難しいですが、タイミングがあえば一緒に過ごすこともあります。
私もたまにタイミングがあえば「今日寒いね」と話したり、お休みの子にモーニングを作ったり。そういうことが生きがいにもなると思うんです。
ご近所とのパイプにもなるし、情報もらったりコミュニティにつながったり。
そういう人が一人でもいれば団結力というか、家庭的な雰囲気も生まれます。手を挙げてくれる人は、意外とたくさんいるのではないでしょうか。
ー確かに、興味を持ってくれる高齢者はいそうですね。
シェアハウス運営も、人との交流や暖かさを求められています。
若者が勝手に使っている場所ではなく、とはいえ干渉し合う訳ではない。何かあればあの人に頼める。
適度な距離感の存在がいると、雰囲気やシェアハウスのあり方もグッと変わると感じます。
これからの人生はどう過ごす?
ー吉野さんはとても前向きですね。今後はどのような生活を送っていきたいですか?
やりたいことは、若いときにやり尽くしました。これ以上はもういい。
正直、これから良いことはもうほとんどないと考えています。悪い意味ではなく、物理的な幸せはこれ以上増えず、精神的な幸せに限られます。
自分がどんなことで幸せだと思えるのか?いつでもどんな状況でも「ああ自分は幸せだ」と思えることが大事ですね。
私は歌を通して居場所を作り、喜んだ顔を見ることが幸せ。だからやるとしたら歌をもっと極めます。
これまでも歌一筋だったため、正直これから他のことは考えられません。もともと教室も友達が亡くなったり子どもが独立したり、年齢による環境の変化で寂しさを感じている人の居場所として作りました。
いまはコロナで難しいですが、コミュニティで喜ぶ顔を見るのが好きなので、また再開したいですね。
自分の歌を聞いて癒やされる人、とにかく私の歌が好きという人がこの世に一人でもいれば、私は十分です。
若い人たちがいまやっておくべきこととは?
ーなるほど。では、僕たち若い人間に言える「こういうことをやっていた方が良いよ」というアドバイスはありますか?
「私は〇〇なら誰にも負けない」という、〇〇に当てはまる部分を見つけた人がこの世の勝者なんじゃないかと考えています。
〇〇に入る誇れるものはお金を稼ぐスキル、仕事の専門スキルなど何でも構いません。
自分がやりたくないことをやる必要はないです。生活があったり、男と女で立場が違ったり、考えないといけないことがもちろんあります。
ただ人から見たらどんなにつまらないことでも「私はこれをしていると幸せ」となるものを見つけている人は、幸福度が高いです。
人生良いことばかり起きる訳ではありません。だってやりたくないことの方が多いじゃないですか(笑)。
特に最近は、先がまったく読めない。ただ読めない中でも自分にくじけず頑張ろうと考えています。だから私、一生けん命この家をピカピカに磨いています(笑)。
ー本当に感謝しています(笑)。
恩を着せている訳ではなく、自分が好きでやっているんですけどね。
私のような高齢者が若い人と住むなら、人生の先輩だからと胡座をかかず、若者の中に溶け込もうという気持ちが大切です。高齢者は説教してくる、口うるさいというイメージもあるかもしれませんが、溶け込もう、学ぼうという人も多いんです。
若い人は本当にえらいです。朝早くから仕事に言って、家事もして。疲れて帰ってくるだろうから、私が家事をして喜びをもらえた分、その間に自分が誇れるものを探してもらえたら良いなと思います。
ー吉野さん、ありがとうございました!
若者と溶け込む気持ちを持てば、シェアハウスは高齢者の居場所になる
シェアハウスはまだまだ20〜30代の若い人が住むイメージが強いかと思います。
しかし物件にもよりますが、70代の高齢者も多く、楽しく生活している人もたくさんいます。
心配や不安もあるかもしれませんが、年齢が違うからこそできること、楽しめるシェアハウス生活があるのも事実です。何か役割を見つけると、シェアハウスが自分にとっての居場所にもなるかもしれません。
実際にひだまりでも、60〜70代の方からお問い合わせをいただくことが増えています。年齢制限を設けず、今後もさまざまな人にとっての居場所になれば幸いです。
まずは雰囲気をつかむために、見学だけでもお気軽にご連絡くださいね。