「一寸先は闇」という言葉がある。「人生は先の予想が全く立たない」といった意味だ。これは人生に限らない。シェアハウス生活においても同様である。
こんなに楽しそうだった男女6人が、ほんの数日のうちにこうなっていた。
「寒い……今晩寝れるかな……」
「おい、紅茶買ってこい。1分以内な。ダッシュで。」
「クソッ!!!カードはここにもねえのか!!!」
たった数日で、全員が絶望的な精神状態になっていたのである。
人間は、脆い。最初は楽しかったシェアハウス生活も、たった一つコンセプトを追加するだけで絶望が誕生してしまう。
今回はそんな、絶望の誕生を見て頂こう。
そうだ、格差、生み出そう
「シェアハウス」という生活スタイルが一般的になって久しい。ここ10年で、シェアハウスを舞台にしたバラエティ番組もずいぶんたくさん作られた。
ただ、僕はそういうものを見る度に思っていた。もっと格差が生まれて欲しい、と。
人間は、格差を生む動物である。社会が生まれれば必ず格差も生まれる。インドのカースト制度に限ったことではない。日本もほんの150年前までは階級社会だったし、現代でも経済格差は広がる一方である。
それなのに、なぜシェアハウスでは格差が生まれないのだろうか。『テラスハウス』でパシらされている住人は見たことがない。
……見たい。『テラスハウス』でパシらされている住人が見たい。恋が生まれる瞬間とかはどうでもいいので、パシリが生まれる瞬間を見たい。
そこで、今回はこういう特殊なシェアハウス環境を用意することにした。
「リアル大富豪シェアハウス生活」である。
ざっくり言うと、ルールはこんな感じ。
こうすることによって、確実に格差が生まれる。住民が住民をパシらせるところを見ることができる。
それどころか、罵り合ったり恨み合ったりするところも見られるかもしれない。負の感情が炸裂するシェアハウスコンテンツができるかもしれない。『絶望テラスハウス』である。俄然、テンションが上がってきた。
僕は高いテンションのまま、告知ツイートをした。
【3泊4日、リアル大富豪シェアハウス生活】やります
・毎晩、トランプの「大富豪」をやり、【その結果通りに生活する】
・大富豪は豪華な生活ができるし、大貧民は大富豪にパシらされる
・丸一日屈辱を味わった大貧民は、翌日リベンジに燃える…!というゲーム企画です。詳細はスレッドを見てね! pic.twitter.com/Yh6Y9ofBZL
— 堀元 見@企画屋 (@kenhori2) February 6, 2020
「大貧民になってめちゃくちゃな生活を送る覚悟がある人ってあんまりいないのでは…?」という一抹の不安と共に投稿したのだが、30件を超える申し込みがあった。すごい。世の中には結構「大貧民になっても構わない」という人がたくさんいるのだ。
そういうワケで、3月某日、杉並区の閑静な住宅街。オープン直前のシェアハウスに、6人の男女が集まっていた。
『テラスハウス』に比べると完全にオシャレさに欠ける気はするが、こちらは予算もないので仕方ない。
どうせ地獄のような空気になるので、オシャレさを追求する必要はない。気にせず先に進もう。
※一応、今回の詳しいルールブックも貼っておく。しかし見なくても支障はないので、よほど気になる人以外は特に見る必要はない→詳細なルールブック
内容の前に:この記事は「インテリ用」である
内容に入る前に一つ申し上げておきたい。この記事は「インテリ用」に書かれている。
あくまでおもしろ系記事ではあるのだけれど、ちょっと知的な用語が登場したりする。いくつか例を挙げておこう。
- ・ロベスピエールの恐怖政治
- ・故事成語「臥薪嘗胆」
- ・チェーホフ『桜の園』
- ・マルクスの社会進化論
こういった言葉の意味が今パッと分からなくても問題ない。本文で登場する度に解説を付しているので、読み終わった頃には楽しみながら少しこういった言葉に詳しくなっているだろう。だから、できればこのまま読み進めて欲しい。
一応、こういった言葉が一切登場しない「非インテリ用記事」というのも用意してあるのだが、こちらは内容が薄くて面白みが少ないのであまりオススメできない。「難しそうな単語を見るとジンマシンが出る」みたいな方だけ非インテリ用記事を読んで欲しい。
「シェイクスピアは、客に合わせて脚本を微調整していた」という説がある。貴族が多い劇場では哲学的な要素を多くし、庶民が多い劇場では下ネタを多くしていたらしい。
シェイクスピアはどちらの脚本がベストだと考えていたのかは分からない。だけど僕は、この「インテリ用記事」が間違いなくベストだと思っている。ぜひあなたにはこのまま下にスクロールして頂いて、「インテリ用記事」をお楽しみ頂ければ幸いだ。
慶應医学部ボーイの驕り
まず、6人に対してルールを説明した。
皆さん。本日はお忙しい中お集まりくださってありがとうございます。
今回は、「大富豪」の結果に応じて生活を送って頂きます。大貧民になってしまった場合の待遇はマジでホームレス以下なので、ぜひ頑張ってください。
僕の説明に対し、一同は「え~!」とか「こわっ!」とか声を漏らす。そんな中、一人だけ「ハハッ、面白いな」と余裕の男がいた。
彼は「大貧民の暮らしなんて、想像もつきませんね」と、敗北を完全に他人事のように捉えていた。
しまりのない口元。おぼつかない視線、いけすかない丸メガネ。ひと目見ただけで、彼は世の中を舐めきっていると分かる。
「慶應義塾大学医学部、在学中です」
彼のそんな自己紹介を聞いたとき、参加者一同に芽生えた感覚は「納得」だった。
日本の私立大学医学部のトップに通うことは、容易なことではない。学力は当然ながら、数千万円に及ぶ学費を払う財力も必要だ。
それだけではない。彼は教育熱心な両親の勧めで、中等部から慶應義塾に入ったという。すなわち、幼少期からの英才教育も与えられてきたのだ。
生まれた瞬間から、彼は与えられてきた。貴族階級だ。
本物の大富豪の家に生まれて、英才教育を受けて、順調にエリートコースを歩んできた彼は、自分が大貧民になることなど想像もしない。「敗北を知りたい」と言わんばかりの人生である。
そんな彼の稀有な境遇に敬意を払って、僕は彼のことを「慶應」と名付けた。
大貧民の暮らしなんて、逆にめっちゃ興味ありますよ。貧困なんて別世界の話ですから。
感じ悪いな…。自分が大貧民になるとは思わないの?
勝つべくものが、勝つべくして勝つのが資本主義ですからね。僕は負けないでしょう。
感じ悪っ。
ちなみに僕生まれた段階で大富豪なんですけど、1ゲーム目から良いカードをもらうことってできないんですかね?その方が正確に「リアル大富豪」だと思うんですけど。
自己紹介の段階でこんなに好感度低いヤツ、初めて見た。
この中に、ご両親が労働者階級の人いますか?もしいたら、僕に良いカードください!
ストップ!!もうやめよう!!!皆の顔が死んでるから!!!
緊張のカード配布
ルール説明を終えてから、最初のカードを配布した。
このカードによって今日の運命が決まる。まともな食事や寝床を得られるかどうかは、この瞬間にかかっている。
いや、初日はそれ以上に重要だ。何しろ、大富豪になれれば明日から大貧民とのカードの交換ができ、この先も勝ち続ける確率が高くなるのだから。こういうのはスタートダッシュが肝心なのだ。
参加者は皆そのことを重々承知しているから、六者六様の緊張の面持ちを浮かべていた。
祈りを捧げる者もいれば…
落ち着きなく空中を眺める者もいる。
そして、「オレのところに悪いカードが来るワケがない」とニヤける者も…。
富裕層の両親を引く確率より、ジョーカーを引く確率の方が明らかに高いですからね。僕は最低でもジョーカーを1枚、多分2枚引くでしょうね。
お前にはぜひクソ手札が配られていて欲しい
緊張の中、カードをオープンする一同。めくった瞬間も、六者六様だった。
彼は、完全にポーカーフェイスを貫き通していた。情報の漏洩を断固として防ぐ強い意志を感じられる。
彼女は、カメラに向かって余裕の笑みを作っていた。精神的な余裕を見せつけることで、他者より優位に立つつもりなのだろうか。
さて、そんな中、「慶應」は相変わらずしまりのないニヤつきを浮かべている。
彼の手元には……
しっかりとジョーカーが入っていた。これが「持つもの」の証拠だと言わんばかりに。
英語では、天才児のことを「ギフテッド」と表現する。その語源は、「ギフト(贈り物)」。才能は天から与えられた贈り物だ、というワケだ。
彼も、天から才能を越えた何かを与えられているのかもしれない。「勝つべくして勝つ」星の下に生まれているのかもしれない。
まあ、大満足とはいかないですけどね、十分勝てる手札だと思いますよ。
クソ手札が配られた方が面白かったのに……
そして始まるシェアハウス生活
初日にカードが配られたのは昼の2時。「大富豪」が行われるのは夜8時なので、初日からたっぷり自由行動の時間がある。序列が存在しない初日は、単なるシェアハウス生活である。
パソコンを開いて作業をしている人も、のんびりおしゃべりに興じている人もいた。
最初の数時間は、お互いのことを知るために、かなり多くの雑談が飛び交っていたように思う。
「僕、実は山形からわざわざ来たんですよ」
「山形から……?大富豪をやるために東京に……?なんでそんな熱量が……?」
「山形の大学に通ってるんですけど、大学のアナログゲームサークルの代表なんですよ。この企画で大活躍して、サークルのメンバーに尊敬されたいと思ったんです」
まだ二十歳そこそこの彼は、年齢に不相応な落ち着いたトーンで喋る。低い声にゆっくりとした動作で言葉を紡ぐ様子はまるで徳の高い住職のようで、すごく崇高な目的があるかのように思えた。
が、よく考えたら彼の目的は「皆にチヤホヤされたい」なので、全然崇高じゃない。キング・オブ・煩悩である。
「なるほど……ん……えっと……?」と、全員が「一瞬何となく納得したけど後から違和感が追いかけてくる」感覚を覚えている。
でも堂々とツッコめる人も誰もおらず、そのまま話は流れていった。僕はこの様子を見て、「若くしてカリスマ性がある」と思った。変なことを言ってるのに皆を何となく納得させることができる人こそがカリスマなのだ。
そんなカリスマ性に敬意を払って、僕は彼を「山形のカリスマ」と名付けた。
貧乏学生なので、今回東京への交通費で所持金のほとんどを使ってしまいました。財布は寂しいですが、リッチな東京滞在をするために本気で戦います。
既に大貧民じゃん。こいつには負ける気がしない。
「慶應」と対照的な「山形のカリスマ」。彼はお金こそ持っていないものの、持ち前のカリスマ性で後に大きな波乱を巻き起こすことになる。この時はまだ誰もそのことに気づいていなかった…。
会話のボールポゼッションで圧倒する人
「ねえ見てみて!!今日に向けてネイルを新しくしてきたの!!」
「慶應」や「山形のカリスマ」が低いテンションで会話する中、ものすごい勢いで会話に割り込んでくる女性がいた。
今回のために、トランプのネイルをしてきたらしい。確かにすごい気合の入り方だと思う。
だけど、そんなことよりも気になることがある……
「でねでね!!!この注文をしたらいつものネイリストもノリノリになっちゃって、うちの店のためにも勝ってきてくださいなんて言われちゃって……」
「だから私負けらんないのよ~。しかも子どもにも今日出掛けに応援されちゃったし、母としてはやっぱり良いところを見せたいってのもあって……」
この人、一人でずっと喋っている。
会話はよくキャッチボールに喩えられるが、この人はずっと一人でボールを持っている。圧倒的なボールポゼッション。会話のFCバルセロナ。これほど会話のポゼッションが高い人、初めて見た。
彼女の会話は、キャッチボールというよりもむしろジャグリングに近い。ボールを投げ返さないどころか、なんなら一人でボール3個持ってる。すごい。
僕は、彼女の圧倒的なポゼッション会話に驚愕しつつ、彼女に「自己主張」という名前をつけた。
そもそも私は大富豪には並々ならぬ想いを持っていて……、「天下一大富豪大会」っていう大きな大会で歌ったこともあって……あ、私シンガーソングライターをやってるんですけど……私がこないだ出したCD聴く???
突然CDを聴かされたカリスマは、天を仰いでいた。
「自己主張」は歌手として活動していて、CDも出しているらしい。
3泊4日、この調子で割と頻繁に「私の曲聴く??」と提案してきた。芸能界で生きていくにはこういう自己主張の強さが必要なのかもしれない。
特殊ルール①「隠しカード」-ダンゴムシの発見
雑談が一通り終わった後、住民たちは買い物をしたり、パソコンで作業をしたり…という当たり前の生活を送っていた。だがそんな中、ヒッソリと異質な行動を取る参加者がいた。
それが、この男だ。
「うーん、ねえなぁ…あっ、ダンゴムシは見つけた!」
彼は、別に昆虫採集が趣味で庭の敷石をひっくり返しているワケではない。今回の「リアル大富豪シェアハウス」には、特殊ルールがあるのだ。
すなわち、敷地内のカードを発見することで、圧倒的に優位に立つことができる。彼は、そのカードを探していたというワケだ。ダンゴムシマニアではない。
だが、隠しカードはかなり難しい場所に隠されている。ちょっとやそっと見ただけでは発見することはできない。
実際、彼もカードは全然発見できず、関係ないものばかり見つけていた。ダンゴムシをはじめとして……
「敷地の端っこに捨てられていたギリシャ風の彫刻(in ゴミ袋)」とか……
「前の家主が置いていったと思われる、手作りの長渕剛のCD」とか。
あまりにも関係ないものばっかり見つけるので、僕は彼に「副産物」という名前をつけた。
全然見つからないな……。ホントにカード隠してあるんですか?
間違いなくあります。
そうですか……
……前の家主は、長渕剛が好きなオジサン世代でありながら、古代ギリシャが好きという文化的な一面もあるみたいですね
前の家主のプロファイリングをするゲームじゃないんすよ。
カードを発見する人もいる
「タンクの裏は……ないか……」
小さくそう言いながら、鋭い眼光でわずかな隙間を覗き込む1人の女性。「副産物」が無意味な家主プロファイリングをしているのと時を同じくして、彼女は次々に隠しカードを発見していた。
彼女は異常な嗅覚の鋭さで、隠しカード発見数トップに輝いた。
階段の一番下の段にテープで貼り付けられていたカードも目ざとく発見したし……
物置内の死角にあったカードも発見した。
1枚も発見できなかった参加者もたくさんいたことを考えると、彼女の探索能力はまさに驚異と言うべきだろう。
僕は彼女のことを、「ダウジングマシン」と呼ぶことにした。
私、もしかして探すの上手い…???
そう思います。素晴らしい探索能力ですね。2時間探しても長渕のCDしか見つけられない人もいますから。
特殊ルール② 物陰で行われる密談
「要らない1枚を純粋に交換するだけ、という条件なら良いよ。手は晒せない」
そんな言葉が、物陰で交わされていた。「慶應」と「副産物」の2人の密談である。
最初から「探すのが面倒だ」とジョーカーをほとんど探していなかった慶應と、ダンゴムシしか見つけられなかった副産物は、そのまま勝負に突入するのが憚られたのだろう。勝つための密談を行っていた。
彼らは物陰でコソコソと何を話しているのか、それを語るためには、まず特殊ルールその2を説明しなければなるまい。
そう、このシェアハウス生活の途中、参加者はいつでもカードを受け渡していいのだ。交換でもいいし、一方的にあげたりもらったりしてもいい。
通常の「大富豪」では、最初のカード配布・交換が終わった後はもうゲームに突入するしかないが、このシェアハウスでは、交渉次第でいくらでも手札を変化させられる。
しかも、ゲームとゲームの間は24時間ある。前日にゲームが終わり次第すぐに新しい手札が配られるので、次の日のゲームまでの24時間をフルに使って交渉が行えるのだ。
誘拐事件の被害者の生存確率は、24時間以内ならば約70%であり、熟練の交渉人は24時間以内の解放を目指すらしい。彼らはこのゲームを通じて、熟練の交渉人を疑似体験する。大富豪になるために、24時間以内に理想の手札を作ろうと懸命に交渉する必要があるのだから。
では、交渉成立ということで。
はい。ありがとう。
2人は、手札からカードを1枚ずつ交換していた。「お互いの要らないカードを渡し合う」という試みのようだ。
そして、コソコソとカードを受け取る慶應の顔は、「ワイロを受け取る汚職政治家」そのものであった。
見たことある。写真週刊誌でこういう写真見たことある。「代議士と土建会社幹部の黒い密会」みたいな見出しがつくヤツだ。
ああいう写真週刊誌の写真を見る度に、なんで顔だけちょっとブレてるのかなと疑問に思っていたけど、僕が撮影した彼の顔もやはりブレている。上流階級の所作とかあるのかな。「ワイロを受け取る時は顔をブレさせる」みたいな所作を幼少期に教え込まれるのかな。
一方、副産物がカードを受け取る瞬間の写真も撮ってみたのだけれど、
ただのバクチ好きオジサンの写真になった。
やはり上流階級は違う。ワイロを受け取る時の所作一つ取っても、庶民とはまるで違う。帝王学を修めた人間だからこそ、ワイロを受け取る時に絵になるのだ。
最後の10分間の使いみち
カードの捜索・雑談・交渉・そして普通の生活……思い思いの過ごし方をした6人は、ゲーム開始時刻10分前に、リビングに戻ってきた。最後の10分間、彼らは皆一様に、自分のカードを広げながら、戦略の確認を行っていた。
1人を除いて。
この男「慶應」、本当に世の中を舐めきっていてすごい。せめて他の参加者の顔を見るとかならともかく、完全にあさっての方向を見ている。多分、壁の模様とかを見ている。
僕はこの時点で、
頼む…!!負けるのはお前であってくれ…!!世の中を舐め切っているヤツが敗北する構図が見たい……!!
と、彼の敗北を心から願っていた。
静寂の第一ゲーム
慶應が壁の模様を見ている内に、ゲーム開始時刻になった。
時間になりましたので開始します。
「ハートの3」を持っている方から、始めてください。
僕がそう告げると、ゲームは動き出した。
静かに、あまりにも静かにゲームはスタートした。
誰も雑談などしない。僕がよく知っている「トランプで遊ぶ風景」とは明らかに異質な空間が、そこにはあった。「今後の生活がかかっている」と考えると、人は和やかにトランプをすることなどできなくなる。これは遊びではないのだ。この後の食事が、この後の生活が、ほんの数分のゲームの中で決定する。
誰一人ムダ口を叩かないまま、淡々とゲームは進行していった。
「4」「7」「8で切って…5のペア」
特別な展開は何もない。革命が起こることもなければ、他者を圧倒する参加者もいない。だけど、時間の経過に応じて、確実に手札は減っていく。
そしてゲーム開始3分。”その時”は唐突に訪れた。勝者の誕生だ。
「では…8で切ってから…2のペアです」
「2とジョーカーによる2のペア」という大富豪においてまず対抗されることのないカードを出した時点で、彼女の残り手札は1枚。
「パス」
「パス」
「パス」
「やったぁ!!!じゃあ上がりです!!!」
勝負が決するのは、いつも一瞬だ。高校野球の名将として知られる蔦文也監督の言葉に、「鍛錬千日之行 勝負一瞬之行」というものがある。ほんの一瞬で決する勝負のために、高校球児は1000日ものトレーニングをするのである。
この大富豪においても同様だ。密談やカード探しといった長時間の努力も、勝負の一瞬で出し抜かれれば全て水の泡になってしまう。
そして、日中の努力が水の泡になってしまった時、人はこういう顔をする。
バクチ好きオジサンが全額スっちゃった時の顔だ。
勝者の反応と、チラつく訴訟
無事に勝利を収めた後、彼女は完全な無表情になった。
「あれ、嬉しくないのかな?」と思った数秒後、一気に動き出す。
「ううっ…!!良かった…!!」
「あああ~~、今日はちゃんとした生活ができるんですね!!!」
彼女はありえないぐらい喜んでいた。一瞬の無表情は、嵐の前の静けさだったのだ。
「なるほど。人は嬉しさが強すぎると、一瞬無表情になるんだな」と思いながら、僕は彼女に「嵐の前の静けさ」と名前をつけた。
劣悪な環境が不安すぎるので、「負けたら逃げ出そうかな」くらいに思ってました。勝てて本当に良かったです。
おめでとうございます。
ちなみに、万が一逃げ出す参加者が出た場合は、この記事が成立しなくなり損害が生じるので、法的措置を取ります。
シェアハウス初日から訴訟をチラつかせるのやめません??
富裕層は没落しない
「嵐の前の静けさ」の勝利を受けて、不服な顔をしたのは「慶應」である。
くっ……!労働者階級のヤツに負けた……!
ふふふ。このシェアハウスの中でくらい、貧しさを味わってみてはいかがですか?
よし…!!良い調子だ……!!このまま慶應は大貧民になってくれ……!!調子乗ってるヤツは痛い目見て欲しい……!!
そんな僕の願いを、天が聞き入れることはなかった。
「これで上がりぃ!!!!」
大げさなフォームでカードを出して上がり、富豪の枠には「慶應」が滑り込んだ。
まあ、大富豪にはなれなかったけど、これで良しとしましょう。明日上り詰める楽しみがある。最初から頂点を極めてしまうとつまらないですからね。
ポジティブでムカつく。
あっさり埋まる2つの平民枠
「大富豪」と「富豪」が埋まり、次にあがる2人は「平民」になる。この2つの平民枠もあっという間に埋まった。
まず「副産物」が壮絶なトリプルの応酬を制して上がり……
その直後、「ダウジングマシン」も上がった。二人の平民の誕生だ。
平民スタートなら、まあ上等でしょう。
普通が一番だね。よかったよかった。
「ダウジングマシン」は複数枚のジョーカーを発見していたが、初日は1枚も使わなかった。温存しても平民に滑り込める展開だったので、ムリせず温存したのだろう。
世紀の凡戦-大貧民争い
残ったのは、「山形のカリスマ」と「自己主張」の2人である。
ふたりとも、元々持ちカードが弱い上にここまでの戦略も失敗している感があり、2人の戦いは世紀の凡戦となった。
最終局面での手持ちが弱すぎる。
4のシングルです。
じゃあ、7。
8で切ります。
という、低い数字の応酬をしばらく繰り返した後……
9!これで上がりですね!!
と、山形のカリスマが世紀の凡戦を制し、ゲームに終わりを告げた。
その瞬間、リビングにありえないぐらいの大声が響き渡った。
「あ゛あ゛あ゛あ゛~~!!!ぐや゛じい゛~!!!!」
僕は、
めちゃくちゃうるさいな……
と思った。
あまりのうるささに、全員が完全に引いていた。
「自己主張」の大声はとんでもなかった。さすが歌手。日々ボイストレーニングをしているのだろう。毎日鍛錬している者にしかたどり着けない声量だった。そして、その声量が完全に裏目に出ていた。我々は、彼女が積んできたであろう鍛錬を呪った。
引く一同。
うるさすぎて失神する人、初めて見た。
皆さんにもぜひこのうるささを味わって欲しいので、ここに音源を埋め込んでおく。聴ける環境にいる人は聴いてみて欲しい。
初日の結果
初日の結果をまとめると、こうなる。
最初のカードにかなり恵まれた「嵐の前の静けさ」が大富豪に、カードの交換を上手く活かしたり家柄の良さに恵まれたりした「慶應」が富豪になった。「自己主張」は強いのは自己主張だけで、大富豪はめちゃくちゃ弱かった。
翌日のためのカード配布
ゲームが終わってすぐ、翌日のためのカード配布をした。
大富豪と大貧民は2枚ずつ、富豪と貧民は1枚ずつ、この段階でカードを交換する。
カードを受け取って思わずニヤける副産物。良い手が来たのかもしれない。
すぐに夕食へ-平民の食事
勝負が決着したら、間髪入れずに食事タイムである。すぐに自分の序列を理解してもらうために、ゲームが終わってまずは夕食という生活である。
平民の食事は、カレー。
キング・オブ・庶民の食事。
特に何の工夫も凝らしていない。普通に市販のルウを使って普通に作った庶民の家庭のカレーである。
普通の食事なので、お腹が減っている平民は普通に嬉しそうだ。
お腹減ってるから、平民食でもめちゃくちゃご馳走に思える。
また、平民以上の人は飲み物も持ち込み自由なので、同じく平民である副産物は持ち込んだビールを飲んでいた。
大富豪は「和牛」。富豪は……
大富豪には、霜降りの和牛肉を用意した。焼くだけで大富豪感を演出できるありがたいアイテムである。
ということで、大富豪の食事は「ステーキ」である。
こんなにガッツリ肉食べるの久しぶり……!!
100g2500円の結構マジで良い肉なので、ぜひ楽しんでください。
ここで不満げな声を上げたのが、富豪の「慶應」である。
あの……僕のメニュー間違ってる気がするんですが……
いや、合ってますよ。
カレーですか……?平民と一緒……??
よく見てください。サラダ付きでしょ。
そんな「セットメニュー的な差」しかないんですか……???
いつも一品しか頼まない店で「今日はサラダセットにしちゃお!」って時、「俺、富豪だなぁ」みたいな気持ちになりません?
僕はならないです。
いや、普通はなるんですよ。ねえ?
私はよく分かります。そういう「ちょっとした贅沢を感じる時」ってありますよね。
そんな「庶民のあるある」を押し付けてないでください。
明日こそお前が負けることを期待するわ。
大貧民の食事
これは何ですか?
「すいとん」ですね。小麦粉と塩を練って煮込んだヤツです。
……戦後とかによく食べられていたヤツ?
ご名答!!初日の大貧民メニューのコンセプトは「戦後まもなく」です。
当時は野菜もほとんど手に入らなかったので、野菜の皮さえも非常に貴重な栄養源だったそうです。
あ、だから上にチョコンと載ってるのは……
「ニンジンの皮」ですね。本体はカレーに使いました。
ちなみに、このスープはどうやって作ったの?
お湯に塩を溶かしました。
ダシは何から取ったの?
ダシ……?とってないですけど……?
とってよ!!!
戦後まもなくはカツオ節も昆布も手に入らないですからね。大貧民のクセに贅沢言わないでください。
旨味が全くない。小麦粉と塩の塊を食べているみたいな感じ。
「みたいな感じ」っていうか、あなたは今小麦粉と塩の塊を食べているんですよ。
私、糖質制限中なんだけど。
あなたの夕食、糖質しかないので諦めた方がいいですよ
貧民の食事
貧民の食事は、特に面白いくだりがなかったので割愛する。
待望の「住民間パシリ」
あと、大富豪の食後の紅茶を買うために、大貧民がパシらされていた。
「おい、紅茶買ってこい。1分以内な。ダッシュで。」
大貧民がピーチティーを買ってきたら、「えっ、桃のヤツとか邪道なんだけど。もっと普通の紅茶買ってきてよ」と言われていた。あまりのかわいそうな様子に涙が出そうになった。
ここからが本番。「部屋」への案内
食事が終わったら、皆を今日の寝室に案内する。
ところで、サバイバルの基本に、「まずシェルター」というものがある。水よりも食料よりも、シェルター(寝床)の方が優先順位が高いのだ。
人間は、1日や2日飲まず食わずでも死なない生き物である。だが、体温が維持できないと数時間で死ぬ可能性がある。我々の直観には反するが、生き残ることを考えるなら「食事」よりも圧倒的に「部屋」の方が重要なのである。
ということで、食事が終わった後は、より重要な「部屋」への案内を行った。
まず、大富豪の部屋。
広いし普通に快適だとは思うんですけど……大富豪の部屋っぽくはないですよね?
お姫様の部屋みたいなヤツかと思った。
(イメージ)
こんなもん用意したら、予算がとんでもないことになるわ。
普通にシェアハウスの広めの部屋って感じですね。
まあ、これからオープンする普通のシェアハウスですからね。その中の一番広い部屋に、ちゃんと寝具類を入れた感じです。
大富豪でこれなら、下の方の人はとんでもないことになるのでは……???
よくお分かりで……。上がたかが知れてるから、下を思い切り下げるしかないんですよね。
明日以降負けたらと思うと、ゾッとします……。
まあ、権力の座を手放さないように、せいぜい頑張ってください。
「大富豪っぽいポーズをしてください」とお願いしたらこうなった。
続いて、富豪の部屋。
富豪の部屋は、特に面白いくだりがなかったので割愛する。
平民の部屋
えっ、毛布1枚しかないの…?枕とか布団は…?
ありません。
「平民」の設定おかしくない…??「平民」はちゃんと布団で寝るでしょ…?
「圧政に苦しんでいた中世ヨーロッパの平民」ということでご納得ください。
「圧政に苦しんでいた中世ヨーロッパの平民」とか言い出したらもう何でもありじゃない???「権力闘争で敗北して牢屋に幽閉された大富豪」とかもありになってきません?????
ゴチャゴチャうるせえな!!平民はおとなしく毛布で寝ろや!!
マジの圧政だ……。
「平民の扱いが平民とは思えない」という妥当すぎる不満が噴出したが、僕は圧政を敷くことによって平民2人をムリヤリ沈黙させた。
わざわざ企画に参加してくれた人に圧政を敷くのは申し訳ない気持ちもあったが、これは仕方のないことだ。
時の権力者はしばしば、自分の身内に近い人に対しても圧政を行う。フランスの独裁者ロベスピエールは、自分と同じジャコバン派に属する政治家に対してもしばしば粛清を行った。秩序を保つためには、身近な人間に対しても冷徹に圧政を敷かなければならない。毛布1枚で寝ることを納得させるためには、善良な企画参加者にも冷徹に圧政を敷かなければならない。
ロベスピエールが行った恐怖政治(テルール)が語源となり、後に「テロリズム」という言葉が生まれた。
恐怖政治の犠牲となった彼女の顔はまさにテロリズムの被害者の顔である。
読者諸賢には、本企画を通して「テロリズムの悲惨さ」を感じ取って頂ければ幸いだ。
貧民の部屋-東京では有名な概念ですか?
貧民の部屋に案内した時点で、彼は半笑いで聞いてきた。
………???これは何ですか……??
「立入禁止のベッド」ですね。
立入禁止のベッド
「立入禁止のベッド」という文字列を初めて聞いたんですが、東京では有名な概念ですか?
いや、日本全国の人が知らない概念だと思います。
よかった。田舎者だから知らないのかと思って焦りました。
このベッドで寝ちゃいけないんですか?
もちろんです。立入禁止なので。
では、どうすれば…?
ここですね。
…………
地面は固いし、めちゃくちゃ寒いし、寝心地は最悪ですね
でしょうね。
いや、「でしょうね」じゃなくて。これ、どう考えても大貧民の部屋ですよね?大貧民と間違ってないですか?
間違ってないですよ。まだ下があります。
これ以下の部屋……???そんな部屋ありえなくない……??僕の時点でほぼホームレスだし……。
山形からやってきた朴訥な青年には想像がつかないようだったが、劣悪な環境というのは無限にあるものなのだ。最後に、大貧民の部屋を見ていこう。
大貧民の部屋-ノリツッコミならぬノリ質問
大貧民の部屋は、こちらです。
………????
あの…………
何ですか?
意味が全く分からないんですけど……
え?ピンと来ませんか?
来ません。
じゃあ、ちゃんとセッティングしましょうか。まず、この薪(たきぎ)を枕にして寝てください。で、瓶詰めのレバーペーストをここに置きます。
今晩は薪を枕にして眠り、目が覚める度にこの肝をなめてください。
??????さっきからずっと何言ってるの??????
もう、勘が悪いなぁ。正解は、「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」ですよ。
「あ~、なるほどね!!」
はいはい。なるほど。臥薪嘗胆ね。それはちょっと盲点だったわ~。
たしかにね~、これは臥薪嘗胆だよね。言われてみると臥薪嘗胆にしか見えないわ~……。
………
「臥薪嘗胆って何???」
ノリツッコミならぬ、ノリ質問ですね。初めて見た。
こういう故事成語ですね。大体、高校の国語の教科書とかに載ってます。
あ~、言われてみると、習ったことある気がするわ。
今回の企画にピッタリだったので大貧民部屋は「臥薪嘗胆ルーム」にしてみました。
薪を避けるのは禁止です。一晩中薪を枕にして、目が覚める度にレバーペーストを嘗めてください。
「でもさぁ……」
春秋戦国時代に王子が嘗めてたのは、レバーペーストではないよね?
まあ、レバーペーストではないでしょうね。さすがに内蔵そのものを部屋に吊るしておくワケにはいかないので、今回はレバーペーストを買ってきました。
ふうん……
味が濃くてツラい。パン買ってきちゃダメ?
胆(きも)を楽しもうとするのやめてください。それツラさを味わう用だから。
それぞれの夜が更けていく
シェアハウスの夜は長い。
時にリビングで、時に階段で、時に屋外で、参加者たちは他愛ない話をしたり、カードの交換をしたり、思い思いの時間を過ごしながら、少しずつ初日の夜は更けていった……。
2日目に行く前に……
ここまで読んでくださった皆様は、こう考えているだろう。この記事いつまで続くの???と。
僕も全くの同意見である。というか、読んでるあなたよりも、書いてる僕の方が圧倒的にそう思っている。何しろ僕は既にこの原稿を12時間以上書き続けているのだ。多分あなたも既に15分くらいこの記事を読んでいるんじゃないだろうか。お互い、限りある人生を大いにムダにしている。
驚くべきことに、まだ初日の数時間の描写が終わっただけなのに、この記事は1万3000文字を突破している。このペースだと、3泊4日の全容を描き出すと10万文字を越えてしまう。一般的な新書の文字数は12万文字~15万文字なので、この記事はほぼ新書1冊分のボリュームに到達してしまう。
いけない。こんなことではいけない。もっと有意義に使われるべきだった僕の時間もあなたの時間も大いに失われてしまう。国民の時間がムダに失われ、日本のGDPは減少し、経済が停滞してしまう。我が国の国力を保つためにも、こんな浪費は一刻も早く終わらせなければならぬ。
ということで、ここからはペースアップして見ていくことにする。大体4倍くらいのテンポでサクサク書いていく。安心してついてきて欲しい。
2日目朝-寝起き
おはようございます。
えっ……あっ……お……おはようございます……
臥薪嘗胆ルーム、頭に木の破片がずっと刺さっていてほとんど眠れなかったわ。
めちゃくちゃ眠い……
えっ……あっ……そうなんですか……。
テンションの低い朝
段ボールで寝るのはさすがにキツいですね。全然眠れなかったですよ……
私も、頭に木が刺さって全然眠れなかった。
俺もめっちゃ眠い
あなたはちゃんとした部屋だったでしょ?なんで眠いの?
昨日3時まで飲んでたから……。
部屋が粗悪で眠れない人はもちろん、うっかり飲みすぎて自発的に睡眠時間を削ってしまう人も現れた。リアル大富豪シェアハウス生活は、睡眠不足になりがちな場所らしい。
もはや戦後ではない
……っていうか、私の朝食これだけ???
そうです。「ふかした芋」です。
もはや戦後ですらないよね。戦時中の食事じゃん。
「もはや戦後ではない」ですね。
ちょっと黙ってて。
それぞれの食後
皆、思い思いの過ごし方をしていた。
砂利に這いつくばって必死に隠しカードを探す貧民もいれば……
のんびりコーヒーを飲む富豪もいる。
睡眠不足をリビングで補おうとする大貧民も……
この各々の過ごし方は、身分社会を分かりやすく象徴しているように見えた。大貧民は日々の暮らしに疲れ切っていて這い上がるための努力すらできない。
大貧民が泥のように眠っている横で、富豪は優雅にコーヒーをすする。このシェアハウスには資本主義の哀しい現状が詰まっているみたいに見えた。
そして夜になった
そして、なんやかんやあって、夜になった。
大胆に時間を飛ばしたが、これは記事を長くしすぎないための配慮である。断じて、日中は僕が近くのカフェで別件の仕事をしていたから写真がないとかそういうことではない。断じて、そういうことではないのである。ちなみに、ドトール明大前駅店は電源もあるしWi-Fiが高速でオススメだ。
今日もまた、ゲームが始まる。
騒乱の第2ゲーム
2日目の戦いを前に皆の精神状態が少々おかしくなるというハプニングもありつつ、とうとう戦いの時間が訪れた。
さあ、定刻になりましたので始めましょう。皆さん、手札を出してください。
ポケットから、カバンから。参加者はそれぞれ、自分の手札を取り出した。
そこで、大きなざわめきが起こる。
明らかに枚数がおかしいのだ。
まず目を引いたのは、「山形のカリスマ」の持ちカード。
彼の持ちカードは実に21枚。
トランプは全部で54枚なので、元々配られたカードは 54 ÷ 6 = 9枚だっただったはずである。
彼は24時間で、それを2倍以上に膨らませてきた。
みな、驚きを隠せない。
そして、山形のカリスマは勝ち誇って宣言した。
僕は昨晩から、なるべく多数のカードを集めようと動いていました。大富豪も情報戦ですからね。全体の40%近いカードを持っている僕は圧倒的に有利にゲームを進めることができます。
情報的にも有利だし、ダブル・トリプル・階段といった複数枚出しのバリエーションもかなり豊富になります。不要なカードなら割と簡単に人からもらえるだろうという前提の元で動いたら、それがハマりましたね。
「今、このゲームは僕の支配下にある。全て計算通りです!!!」と勝ち誇るカリスマ。ライアーゲームでこういう人見たことある。
持ちカードの枚数において、もう一人特筆すべき人物がいる。彼女だ。
私は、手札が1枚しかないです。
彼女は、手札の大部分を「山形のカリスマ」に渡していた。残っている手札は1枚のみ。これが出せるタイミングがくれば問答無用で勝利となる。
だが、山形のカリスマは再び勝ち誇って喋り始めた……
ふふっ……!愚かですね……!今回のルールでは、2日目以降のゲームは大貧民の手番からスタートし、階級が低い順に順番が進んでいきます。
つまり、平民であるあなたがカードを出せるのは必ず僕の後だ。だけど、僕は絶対シングルのカードであなたに手番を回しません。複数枚を出し続ける。だから、あなたが手元の1枚を出せるタイミングはいつまで待っても来ないんですよぉ!!
こいつ、急にめちゃくちゃ喋り始めた。
僕が唯一怖かった展開は、残り1枚の手札をあなたが誰かに渡してしまう、つまりスタート時点で手札がゼロ枚になっている展開だけでした。今回のルールでは「手札がゼロ枚になっていたら、ターンが回ってきた時点で自動的に勝利」なので、それだけを避けたかった。逆に言えば、あなたに勝機があるとしたら、その1枚を誰かにあげておくしかなかったんですよ。
……とはいえ、その1枚を渡すのも困難だと僕は分かっていたんですけどね。僕がカードを集めているのは皆知っていたでしょうから、他の参加者も「こいつからカードをもらってしまったらこいつはゼロ枚になるのでは?」という疑惑がどうしてもよぎります。だから、残った1枚のカードを譲渡するのは困難のはず…と思っていました。そして実際、あなたはカードを渡しそこねた。すべて僕の計算通りです。
「すべて……計算通りなんですよ……」
一人でめちゃくちゃ喋って気持ちよくなってる。
すごい憎たらしい。
軽い気持ちで名付けたあだ名「山形のカリスマ」だったが、僕はこの名付けは間違っていなかった、と思った。
この男は、大胆になることができる。「戦いの全てを掌握しよう」と考えて行動することができる。これは紛うことなきカリスマの素質だ。
司馬遼太郎は、『竜馬がゆく』の中で、坂本竜馬に
慎重もええが、思いきったところがなきゃいかん。
慎重は下僚の美徳じゃ。大胆は大将の美徳じゃ。
というセリフを語らせている。「大胆は大将の美徳」なのである。
山形のカリスマは、坂本竜馬と同じく大将の美徳を備えている。山形の坂本竜馬だ。今は貧民に甘んじているが、彼はきっと倒幕の立役者となり、歴史に名を刻むに違いない。
あっけなさすぎる決着
山形のカリスマが一人で喋って説明してくれた通り、今回採用したルールでは、大貧民→貧民→平民→…という風に、地位が低い方からスタートする。
つまり、最初は大貧民である「自己主張」がカードを出すことになる。
まあ、手札が1枚の人がいる以上、1枚では始めたくないよね。
そう言って彼女が出したカードは、10のペアであった。
これを受けて、貧民である山形のカリスマの番になったのだが……
えっと……
え~っっとぉ………
手札が多すぎて混乱していた。
(はやくしてくんねえかな……)
そして、1分くらいじっくり悩んだ後、
……パス!!!
よくあんだけ勝ち誇った後に10のペアをパスできるな。
そして、貧民がパスをしたので、次は平民である彼女の番だ。
手持ちが1枚しかない彼女は当然パスかと思いきや……
スッ
サッ
バサッ
ジョーカー2枚を出した。
そう。彼女は持ち前のダウジング能力で、初日に2枚の隠しジョーカーを見つけ、それを温存していた。
僕は報告を受けていたから彼女がジョーカーを持っているのを知っていたし「ダウジングマシン」なるあだ名をこっそりつけていたが、他の参加者はそのことを知らなかった。
したがって、さっきまで勝ち誇っていた彼の顔はこうなった。
えっ!!!!!!
カメラからフレームアウトするほどの驚き。予想もしていなかった事態のようだ。
残念ながら、山形の坂本竜馬はあっさり殺されてしまった。この坂本竜馬は運がなかったようだ。
池田屋事件の際、坂本竜馬は運良く神戸の海軍操練所の仕事をしていて京都にいなかったため、襲撃を逃れた。もし坂本竜馬に天運がなかったら、池田屋事件であっさり死んでいた可能性が高い。
坂本竜馬と同じ「大将の美徳」を備えていたとしても、天運を持っていなければ坂本竜馬にはなれないのだ。彼は、志半ばで無残に死んだ哀れな坂本竜馬である。
はい、上がり~。
ダウジングマシンが一瞬にして勝利を決め、場は静まり返った。
見事にやられてしまった彼の脳内には、何がよぎっているのだろうか。
きっと、2分前の自分の発言がリフレインしているだろう。
思い出した時に死にたくなるくらい恥ずかしい発言というのを、大人ならば誰もが1つや2つ持っている。
今日、彼の中にも一つ、死にたくなる恥ずかしい発言が増えた。僕は心の中で彼を大いに応援していた。大丈夫、君はまだ若い。この恥ずかしい経験を糧にして、強く生きていって欲しい。大人になるとは、きっとそういうことなのだ。
続々と決まる勝者
「いやあ、参ったね……まさかこの手で負けるとは……」
そう言いながら、颯爽とカードを出していくのは副産物である。
まずジョーカーで切る。更に、「2とジョーカーのペア」で切ってから、階段革命ですね。
で、上がり……と。まさかこの手で大富豪になれないとは思わなかった。
本ゲーム開始時点の副産物の手札。狂気の完成度である。確かにこの手で負けるとは夢にも思わないだろう。
なんでこんなに良い手になったんですか……???
いや、あいつが要らないカードを全部もらってくれたから……。
「あいつ」
なんということだろう。ゲームが進めば進むほど、彼のさっきの発言の恥ずかしさは増していく一方だ。
自分がゲームをコントロールしているみたいなことを言いながら、なんと2アシスト決めている。彼に要らないカードを上げたお陰で、他の2人が必勝の構えを完成させることができた。
「敵に塩を送る」という言葉があるが、この場合は「敵のカードを引き取る」だろうか。彼は全てをコントロールできるつもりでいたらしいが、結果から言うと要らないものを引き取ってくれる都合のいい廃品回収業者になってしまった。
「山形の坂本竜馬」とか褒めて損した。彼は「山形から来た廃品回収業者」だった。
廃品回収業者となってしまった彼にできることはもはや、顔を真っ赤にしながら苦笑いすることだけである。ほんの10分前まで溢れていたカリスマ性はすっかり霧散してしまった。
2日目の結果
この夜の戦いの最大の見どころは山形のカリスマの体たらくなので、ここから先は特筆すべきことはもうない。したがって、皆さんには最終結果だけお見せしよう。
山形のカリスマは無事に「平民」には収まった。目論見が外れて坂本竜馬から廃品回収業者になってしまったものの、まともな食事と部屋が得られる平民に上がったのは彼にとって好ましいことだっただろう。
一応ガッツポーズをしていたのだが、その表情にも手にも力はない。イキリ倒してしまった恥ずかしさは、表情筋や指屈筋の力を奪っていくらしい。
また、「慶應」は一気に富豪から貧民へ転落した没落貴族になった。
さぞ大きく落ち込んでいるかなと思ったら、その時彼は……
天を仰いでいた。人が現実を受け入れるには時間が必要なのだろう。
あと、2日連続大貧民になった「自己主張」は相変わらずうるさかった。
今日もめちゃくちゃうるさい上に、同じ人が大貧民だと記事的にも変化がなくてつまらないという二重苦である。
記事にしなきゃいけないこっちの身になって欲しい。
また負けた……!っていうか皆めちゃくちゃカードのやり取りしてるじゃん!
いつの間にそんなことやってたの…???私はそんなヒマ全然なかったのに…!
あんたはずっと寝てたからだろ……。
57万人が注目する食事
2日目の夕食は鍋である。大富豪は牡蠣・エビ・和牛といったランクの高い食材を食べることができる。平民は普通の安い具材だ。
しかし、その辺りの違いは皆あまり気になっておらず……
楽しい鍋パ!みたいな感じになっていた。
この写真、一見すると「楽しい鍋パ!」そのものなのだけれど、このうち2名、一切鍋を食べてない人が混ざっている。人狼みたいな世界観だ。鍋パ人狼である。
人狼Aはこいつだ。没落して「貧民」になった慶應。
あの、この食べ物はなんですか……ひたすら赤いんですが……
「貧民の食事」ですね。
それは知ってます。そうじゃなくて、メニュー名を教えて下さい。
あ、だから、メニュー名が「貧民の食事」です。正確には「The Poorman’s Meal」。
The Poorman’s Meal!?そういう名前の料理があんの???「貧民の食事」っていうメニューがあんの???
世界恐慌直後のアメリカでよく食べられていたものだそうです。
初日との差別化のために国際色を豊かにしてきやがった。
ちなみに、レシピは「大量のジャガイモに、少しの玉ねぎとソーセージを放り込んで炒めてトマト缶を突っ込む」のみです。超カンタン。
そんなレシピどこから調べてきたんですか?
「Great Depression Cooking(大恐慌クッキング)」っていうアメリカのおばあちゃんのYouTubeチャンネルがあって、そこで紹介されてました。
「大恐慌クッキング」っていうチャンネルがあるの!?!?何の需要があるの??
アメリカ人には「今日は大恐慌のメニュー再現したいな~」っていう日があるの???
需要は全く分からないけど、チャンネル登録者は57万人いました。
今回はまさに「貧民の食事を作りたい」と思ってたので需要ありましたよ。こういう人が57万人いるのでは?
世界は広い……
「まあでも……普通に食えるな……。コンソメとか入ってたらもっと美味しいんだろうけど」
今回戦後や世界恐慌後のメニューとかを調べて分かったコツは、「旨味成分をなくせばそれっぽくなる」ということですね。
ライフハックみたいに言われても……。
そして、もう一人の鍋を食べてない人は、大貧民である「自己主張」だ。
大貧民の食事はもう面倒くさかったので、要らない草盛り合わせにした。
「リアル桜の園」にはならなかった
先ほど、「貧民」になった時に、慶應は天を仰いでいた。現実を受け止められていない様子だった。
だが、「貧民の食事」を食べきった後、彼はすっかり現実を受け入れたらしい。自発的な貧民としての行動が生まれたのである。
山形のカリスマが鍋を食べ終わった時のことだ。
ごちそうさまでした。
と、食器を下げようとしている山形のカリスマに対して……
あっ、やっておきますので、平民様は座っていてください!!!
なんと、洗い物の代行を名乗り出たのだ。
正直、彼は貧民になっても人をナメた態度を続けるだろうと思っていた。だが、立派に貧民としての動きを始めた。これはすごいことだ。
ロシアの劇作家チェーホフは『桜の園』の中で、没落貴族ラネーフスカヤの悲哀を描いた。ラネーフスカヤは自分が落ちぶれたことを真剣に受け止めることができない。裕福だった頃と同じように散財を続け、破滅に向かっていく……。
だが、ラネーフスカヤと違い、慶應は意外にも落ちぶれたことを受け止めることができていた。彼はラネーフスカヤではなかった。
ラネーフスカヤと彼の最も大きな違いは、恐らく年齢である。ラネーフスカヤの年齢は劇中で明示されないが、少なくとも成人した子どもを持っており、初老を迎えていたことはまず間違いない。その年齢になってしまうと、人は今までの自分をそうそう改めることはできないのだ。
だけど、慶應はまだ20代だ。この年齢で食べた「貧民の食事」は、彼の中で驚くべき速さで消化されたのだろう。内蔵で消化される以上の速さで精神的に消化され、新しい階級意識に昇華されたのだ。彼は貧民としての振る舞いを素早く身につけ、見事環境に適応した。
きっと、人は20代の内に「貧民の食事」を口にしておいた方がいい。ずっと富豪のまま初老を迎えてしまえば、我々はラネーフスカヤになってしまう。
ここで一度貧民を体験した慶應は、きっと今後の人生で没落したとしても、その現実を受け入れることができるだろう。そう考えると、この企画に参加したことは彼の人生において非常に価値のあることに思われる。
ラネーフスカヤのように生まれた頃からずっと裕福な人すなわち「リアル大富豪」の人は、今回のような企画に参加して貧困を体験してみるべきだろう。いざ没落した時、哀れなラネーフスカヤにならないために。
現実を受け入れることができた没落貴族は、「プチプチ」を布団代わりに使うという知恵を発揮していた。現実を見つめればこういうアイディアも湧いてくる。最も大切なのは、現実を受け入れることなのだ。
3日目に入る前に……
2日目を終えた時点で2万文字になってしまった。いや、初日よりもだいぶペースアップしてはいるのだけれど、それでもまだだいぶ日本のGDPをドブに捨てている感じがする。
安心して欲しい。3日目は更に加速していく。何しろ、僕がもう飽きてきたので3日目は写真が少ないのだ。もうちょっとだけ、もうちょっとだけ着いてきて欲しい。
(必死に読者を慰留する前に記事をもっと短くまとめろという話なのだけれど、そのあまりにも正しい指摘は耳に入れないことにする)
3日目-決意を新たにする朝
ようやく、3日目になった。長かった戦いももう終わる。
おはようございます。今日はベッドと毛布で寝られたので身体が痛くなくて最高ですね。
それはよかった。今日こそ大富豪になれそうかな?
そうですね。昨日のような醜態はもう見せませんよ。
部屋から出てきた彼は、爽やかな顔をしていた。一晩を過ごす中で、あの悲しい事件から心を切り替えることに成功したのだろう。
「流れ進むのはわれわれであって、時ではない」というのはトルストイの言葉だが、まさに彼は自ら前に進んでいた。恥ずかしい自分の発言と決別して、今晩の戦いに備えている。
今後が楽しみだなと思った。それは単に今晩の戦いという意味ではなく、彼の将来も含めて。
あと、大貧民の寝起きは写真に変化が全く無くて腹が立ったし、ちょっとかわいいと思われようとしてるポーズしてる感じも腹が立った。
没落貴族の孤独な戦い
クソッ!!!ここにもねえのか!!!
段ボールで寝ることになったのがよほど悔しかったのか、ここに来て慶應は必死で隠しカード探しをしていた。
ラネーフスカヤが真の意味で没落を受け止めたのは、気に入っていた「桜の園」を奪われて桜を切られた時だった。彼にとっての「桜の園」はベッドだったのかもしれない。ベッドを奪われることで彼は、必死で戦う覚悟が決まったのだ。
でも、めっちゃ頻繁に手を洗っていた。
緊張感と寂しさの夜
相変わらず大胆に時間を飛ばすが、皆がカードを探したり交渉をしたり生活をしている内に、夜になった。
3日目の夜、これが最後の戦いになる。
皆、どこか落ち着きがなかった。このテーブルを囲んでいる人たちは、3日間蹴落としあった敵同士でもあるし、寝食をともにした仲間でもある。
「負けたくない」という気持ちと、「今日で終わりか」という寂しさが、奇妙に同化していた。
そして、ゲーム開始時刻になった。不思議な空気を、開始コールが吹き飛ばす。
時間になりましたので、手札を出してください。
最終ゲームも、やはりこの瞬間から波乱が起こった。
「カードを出せ」と言われた山形のカリスマは、ただ手を前に出しただけだった。
持ちカードは0枚です。ターンが回ってきた時点で終わりですね。
昨日は「カードを増やしまくった方が強い!!」と豪語していたカリスマだが、なんと今日はカードを0枚にすることに成功していた。
彼だけではない。異常な持ちカードの人がもう一人いる。
自己主張である。彼女は1枚しか手札を持っていない。
ゲームは大貧民の手番からスタートするので、彼女はこの1枚を出してしまえば終わりである。事実上、最初から1位が確定している。
この2人のカードがどこに行ったかというと……
慶應がほとんど一人で持っていた。
27枚くらいあります。
自分でも枚数把握できなくなってる……。
なんと、日中にこの3人は密談し、最終的に「2人のほとんどのカードを慶應が引き取る」ということで合意したらしい。
ここに噛み付いたのがダウジングマシンである。
いやいやいや、なんでそんなにカード引き取ったの!?この時点であなた3位以下が確定してるじゃん!!
まあそうなんですけど……2人のカードを全部受け取れば何とか平民以上にはなれそうだったので、そっちに賭けました。どうせ僕はもう富豪以上にはなれないでしょうし……。平民に滑り込めたらいいかなって……。
こいつ……ふてくされてやがる……。
なんということだろう。没落を受け止めたラネーフスカヤは、返り咲く気力をすっかり失っていた。丸一日隠しカードを探したのに見つけられなかった彼は、「平民狙い」で半ばヤケクソ気味にカードを引き取ったのだ。返り咲く術を見失った没落貴族は、廃品回収業者になるらしい。「もう貴族ではないから、労働者階級として生きていこう」という意志の現れなのかもしれない……。
1ターンで決まる大富豪・富豪
今回のゲームでは1位・2位は最初から約束されている。
「自己主張」が初手で1枚だして、まずあがり。
「イヤッホォオオオウ!!!!」
「やったぞぉおおおおおお!!!!!」
「大富豪だぁあああああああああああああああ!!!!!」
自己主張はその名に恥じぬ自己主張っぷりで勝っても負けても超騒がしいことが分かり、僕は「この人、今後は出禁にしよう」という決意を固めた。
また、「山形のカリスマ」は自己主張とは対照的に静かにあがった。
カードがないので、もうあがりですね。
こうして大富豪・富豪が一瞬にして決まったワケだが、この展開に「副産物」も納得いかないようだった。
君たちのヌルい馴れ合いにはガッカリだ…!最後だから大富豪を目指そうみたいな気持ちはないの……???何その「富豪でいいや」とか「平民でいいや」の精神!?
だが、副産物の形相に気圧されることもなく、山形のカリスマは冷静に切り返した。
まあ……なんとでも言ってください。実際あなたは負けてるワケですからね……。
人生というのは、破滅を賭けて頂点を目指すべきタイミングは少ないんです。確実に2位に収まる方が貴重な時の方がずっと多い……。僕は合理的な選択をした、それだけです。
確かに、長い人生においては「1位を目指すぞ!」というのは現実的ではない局面もある。血気盛んな若者らしくはないが、「1位を人に譲り自分も得をする」という選択は正しいことも多いだろう。彼は昨日よりもずっと成長して、懸命になったということなのかもしれない……。
そんな風に一同がなんとなく納得しかけた時、「慶應」が口を開いた。
カッコいいこと言ってますけど、彼も最初は嫌がってましたよ。「ボードゲーム買ってあげるから」って言われて買収されてました。
「はぁ……????」
なんと、「自己主張」は「山形のカリスマ」を説得する材料として、ボードゲームを1個買ってあげたらしい。
ちょっと!!それ言わないでくださいよ!!
何かイキってたからつい……
じゃあ何?2000円のゲーム1つとかで買収されたの…??安い男だなぁ……。
「山形から勝ちに来ました!」みたいなこと言ってたクセに、2000円であっさりプライドを捨てるって、恥ずかしくないの…?
「リアル大貧民」じゃん。かわいそ。
どんどん表情がなくなっていく彼を見ると、いたたまれない気持ちになった。山形からわざわざ来たのに、2日連続とんでもない辱めを受けてしまった。ぜひ、強く生きて欲しい。
最終結果
ということで、波乱の「3人組によるカードのやり取り」が行われた最終ゲームの結果は、こうなった。
注目すべきは、カードまるごと受け渡し作戦に出た自己主張・山形のカリスマ・慶應の3名が見事にトップ3を占めたことだろう。
ゲームが終わった後、彼らはまるで3人チームかのように写真を撮っていた。
個々に蹴落とし合う敵同士にも関わらず、「富豪でいい」「平民でいい」という発想のもとで徒党を組んだ彼らは、予想通りの結果に終わって満足げな顔だった。(右の人が満足げなのは2000円のボードゲームを買ってもらったからかもしれないけれど)
すっかり出し抜かれてしまったこの3名は釈然としない様子だったけれど、もう決着はついたのだ。結果から言えば、徒党を組んだ人たちがバラバラだった人たちを圧倒した。人間は集団で戦うことによって初めて大きな力を発揮できる生物なのだ。月並みな結論だけど、きっとそういうことなのだろう。
手巻き寿司パーティーと、マルクスの社会進化論
最終日の夕食は「手巻き寿司」である。大富豪には豪華な具材が与えられ、大貧民にはキュウリのみが与えられた。
だけど、この最後の晩餐において、驚くべきことが起こった。
キュウリのみを淡々と食べ続ける大貧民に対して……
よかったら、好きな具材あげましょうか?
えっ……???いいの……???なんで……???
もう最終日だし……いいかなと思って。別に食事を分け与えても、ルール的には問題ないですよね?
問題ないです。
だから、まあほら……色んな戦いがありましたけど、水に流して、最後は楽しく終わったらいいかなと。
突然良いヤツになった。
あっ、そういうのありなら、私も皆に分け与えよう。大富豪のウニを皆にあげまーす。
この記事は2万5000文字くらいあるので、皆さんは既に最初の方の内容をお忘れかもしれない。だから最初に書いた趣旨をもう一度書いておくが、僕は「住人同士がパシらせ合ったり、格差を妬んだりする格差空間が見たい」と思い、今回の企画を始めた。
「大富豪」という資本主義の権化のようなゲームを通して、格差を味わいながら醜く争ったり妬み合ったりして欲しいと思った。
だけど、そうはならなかった。最終日には彼らは分かち合い、幸せそうに過ごしていた。大富豪が大貧民をパシらせることも、ついぞなかった。シェアハウスは平和そのものであり、理想的な社会がそこにはあった。
カール・マルクスは、資本主義社会が高度に発展した後には階級闘争が始まり、最終的には階級間の対立が存在しない共産主義社会が生まれると説いた。これをマルクスの「社会進化論」と表現するが、もしかしたらこの3日間で起きたことは社会進化なのかもしれない。
4日目の朝-解散へ
3泊4日の全ての日程が終わった。4日目の朝、皆バラバラと帰っていく。
お世話になりました!!
最後に感想を一言どうぞ!
うーん、何だろ。臥薪嘗胆ルームはほとんど眠れなかったので、今はめちゃくちゃ眠いですね。
でも、最終日は皆「階級とかいいから仲良くしよう」って空気が出て、最後はとても楽しくなりました。ちょっと名残惜しいです。
4日間ありがとうございました!飛行機で山形に帰ります。
最後に感想をお願いします!
すっごい恥ずかしい経験がいっぱいあったんですけど、最後は皆ギスギスすることもなく、楽しく終われて最高です。「終わりよければ全てよし」という感じですね。段ボールの部屋で寝るのはマジで寒いし固いしで最悪でしたけど。
お疲れ様でした~!
最後に感想をもらっていいですか?
うーん、最初は完全に調子乗ってましたけど、あの頃の自分を反省しましたね。偉そうにしてると自分が没落した時に自分に返ってきてキツいと思いました。階級みたいなものにはこだわりすぎない方がいいですね。
あと、プチプチは意外と暖かくて感動しました。
結論-「奇跡のシェアハウス」の存在
他の3人の感想も、大体似たようなものだった。つまり、リアル大富豪シェアハウスは「階級差でギスギスしてない時は楽しい」かつ「段ボールや臥薪嘗胆で眠らなければ楽しい」のである。
ということは、「階級差がなく」「段ボールや臥薪嘗胆で寝なくて住む」シェアハウスがあれば最高に楽しいということになる。そんな都合がいい場所があるだろうか……???
ある。実はあるのだ。住民同士の階級闘争が存在せず、段ボールや臥薪嘗胆で寝なくていい奇跡のシェアハウスが存在する。
それがこちら。「シェアハウスひだまり」である。
「シェアハウスひだまり」は現在、関東と九州を中心に40棟以上のシェアハウスを運営しているシェアハウスブランドである。
にわかには信じがたいことだが、「シェアハウスひだまり」には住人同士の階級闘争が存在しない。住民たちは皆フラットに仲良く過ごしている。
更に、段ボールで寝なければいけないといったルールもなければ、臥薪嘗胆ルームが用意されていることもない。
「そんなのウソだろ?裏ではどうせ階級闘争してるんだろ?」と疑いたくなる気持ちも分かるが、僕は実際に一年半ほどシェアハウスひだまりの物件に住んで、階級闘争は一度も起こらなかった。聞こえの良いウリ文句などではなく、これは真実なのだ。
こんな素晴らしく楽しいシェアハウス生活は、あなたの人生の喜びを増幅してくれるに違いない。現在家を探している方、シェアハウス暮らしに興味がある方は、ぜひシェアハウスひだまりの物件を見に行くと良いだろう。
ちなみに、今回「リアル大富豪シェアハウス生活」に利用した物件も既に内見が可能になっている→[杉並区]シェアハウスひだまり「ジェルメグランツ西永福」
もちろん臥薪嘗胆ルームは解体された後だが、「あ、ここ元臥薪嘗胆ルームだ」などと楽しめると思うので、住むことを検討される方はぜひ内見しに行くといいだろう(住む気がないのに面白半分で元臥薪嘗胆ルームを見に行くのは迷惑なのでやめよう)
物件一覧・内見依頼はこちらからどうぞ。
まとめ
- ・「リアル大富豪シェアハウス」は最終的に「共産主義シェアハウス」になる。
・テロは、よくない
・世界恐慌後の料理を再現したい人は57万人いる
・戦後の食事を作るコツは「旨味成分をなくすこと」
・プチプチは意外と暖かいのでオススメ
最後に
2万5000文字を超える長い記事にお付き合い頂いて心から感謝する。僕もあなたも、この記事に相当ムダな時間を使ってしまった。
もしあなたが、更なるヒマを潰したいと望むなら、非インテリ用記事を読んでみてもいいかもしれない。読み比べて、どこが異なっているのかを調べてみると、「この記事から知的な要素を引き算するとどうなるのか」が分かる。もちろん、そんなこと分かったところで誰にも褒められないけれど。この記事を最後まで読んだ酔狂なあなたなら、もしかしたらそういう比較も楽しめるかもしれない、と参考までにお伝えしておこう。
以上、これで本当に終わり。ありがとうございました。